いよいよエチオピアも本当に最終回。
「次のエチオピアの話、楽しみにしています」といったことを2名のお客様から言われたので、少なくとも2名の方はこれをお読みくださるはず。
今回も長くなるので、エチオピアについてのどーでもいい話など読んでいる暇はないという方は、ここで退出されることをお勧めします。
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さて、10数年前は、相場が下がっていようが、安くしか売れまいが、早く倉庫にある豆を売るように言っていたエチオピア政府が、2019年には「ECXのオークション落札価格より安く売ってはならない」という法律を制定したという矛盾。
10数年前の逮捕劇は、経済の理論に反していると思われましたが、今日「安売り禁止法」ができるに至った経緯を見ると、やはり経済の論理が正常に行われたので、そのような法律の制定に至ったという、一言で語ると、なんのことやら分からない説明になります。
皆さんは、もし仕入れ価格より安く売らなくてはならないことになったら、どうするでしょうか?
商品の販売で利益が出ないのであれば、それ以外のもので利益を上げようとするのが道理でしょう。
では、珈琲豆という商品で利益が出ない状態において、輸出業者はどうやって利益を上げようと考えたか、そこには前回も書いた通り、エチオピアという国の事情が大きな意味を持ちます。
エチオピアは建設ラッシュ、しかし、建築資材や機器類は全て輸入に頼っている。
しかし、外貨が不足しており、それら輸入資材を購入したくても購入できないので、建設が途中で頓挫して先に進まない状態。
こういう状況だと、建築資材や建設機器の相場は完全な売り手有利に働きます。
極論、モノがないのだから、建築資材などは売り手の『言い値』が『相場』になります。
勘のいい方ならもうピンときたはず。
コーヒーの相場で損をしたコーヒー輸出業者は、建築資材の相場で儲けようと企んだわけです。彼らの儲け方はこうです。
例えば、コーヒー豆の落札価格が 1,000円 / kg だったとしましょう。
通常なら、輸出業者は各国の輸入業者に1,300円 / kg で売れたとしましょう。
もし、落札したコーヒー豆の量が 1トンなら
売価 1,300円 - 仕入価格 1,000円 × 1,000kg = 300,000円 なので、30万円の利益が出ます。
それを 700円 / kg で1トン売ったら
売価 700円 - 仕入価格 1,000円 × 1,000kg = ▲ 300,000円 なので、30万円のマイナスになります。
しかし、コーヒー豆の取引としては赤字でも、そこで得た70万円で、70万円分の建築資材を購入して、150万円で売れば
建築資材の売価 1,500,000円 - 資材の仕入れ価格 700,000円 - 豆の赤字300,000円 = 500,000円
となり、普通に豆の輸出をするより20万円利益が多くなります。
そうなると、相場とは関係なく輸出業者は手っ取り早く外貨を獲得するために、輸入業者に安く豆をたたき売ります。
そこで得た外貨で、建築資材を輸入して建設業者に『言い値』で高く売れば、楽して儲かるということになります。
本業の豆で利益を出そうとしたら、頑張って付加価値を付けて、より高値で輸出業者が購入するよう仕向けなくてはなりませんが、誰か一人でも相場より安く売る業者がいれば、買い手はその売り手の元に集まります。
そのような負の連鎖によって、エチオピアのコーヒー豆は本来あるべき価格よりも安く流通するようになってしまい、同時にエチオピアの国内では、相場より高い建築資材しか流通しなくなってしまうという悪循環に陥るわけです。
元はと言えば、真っ当に相場で利益を出そうとしていた輸出業者をたきつけて、早く外貨を獲得するため損してでも売るよう促したところ、それによって不必要に建築資材の高騰を招いてしまったと言っても過言ではなく、そのあたりが経済政策の難しいところかもしれません。
そんなエチオピア産のコーヒー、風味の面において、中米のスペシャルティと比べても決して劣っていない、と言うよりも、中米がどんなに頑張ってもエチオピアの味は決して出せない唯一無二のものです。
私の個人的な見解としては、エチオピアの豆は、そのクオリティを考えるとコーヒー全体の価格としては安すぎると思うのですが、その原因がこのような事情によるものだと考えると、今回の法律が制定されたことにより、近々消費国におけるエチオピア豆の販売価格は暴騰するのではないかと案じているところです。
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さて、エチオピアのコーヒーについて、私たちは農園を回った最後に輸出前の最終工程である「ドライミル」の工場建設現場を見せてもらいました。
エチオピアで私たちがお世話になったのは、エチオピア国内に多くの農園とウエットミル(精選工場)を持ち、輸出も自らしている METAD社。
通常、農園がウエットミルとドライミルまで持って輸出まで一貫して行うことは少ないのですが、エチオピアという国で、クオリティをしっかり維持して、まさにシード to カップまで責任を持つには、生産と精選、輸出まで一貫する必要があるということなのかもしれません。
METAD社の社長
アディスアベバから車で1時間ほどのところにある精選工場(ドライミル)
豆の比重選別機
ベルトコンベアの両脇に人が並んで、ハンドピックをするための最終選別ライン
巨大な精選工場
METAD 社のウエットミルは、場所によって地域の零細農家からチェリーを買い付けて一つのロットを作ると言うこともしています。
しかし、仕入れにおいては厳しい基準を設け、しっかりとグレーディングされます。
彼女が、零細農家が持ってきたチェリーの可否を判断する責任者。
若く美しい方でしたが、チェリーを見分ける眼力は、この地域でも飛びぬけているとか。
METAD社の社長に、どうしてこんなに大きな投資をしてまで、ドライミルを作る気になったのかを聞いてみたところ、こういう答えが返ってきました。
本当に良い品質を確保するために、ドライミルは大きな役割を持っている。
同時に、エチオピアでは、輸出業者がインポーターやバイヤーに送るサンプルをドライミルで見かけた良い豆から抜き取って(要するに他人の豆)送り付けてしまうことも珍しくない。
そういう不正が起きないよう、自社のものは自社が責任をもって全て管理する必要がある。
エチオピアに限らず、他の一部の国の豆でも、サンプルは素晴らしいのに、いざ入荷した豆を見て愕然とすることが過去に何度かあったのは事実です。
「もしや」とは思っていても、実際にそういうことが行われていると聞いて、ショックだったのと同時に、コーヒーの世界においては、未だにそういうリスクがあることを知っていないといけないと感じました。
ただ、そんな中においても、こうして良いものを追求している人々がいることも事実です。
私たちは、より良いものを適正な価格で仕入れて、より良いコーヒーをお客様にお楽しみ頂けるよう努力しなくては、と、強く思う瞬間でした。
エチオピアの農園は、標高2,000メートル以上にあることも多く、朝は雲の中にいます。
農園での目覚めは、鳥の声に起こされ、外に出ると薄雲の中から日が差してくる、幻想的な朝でした。
そして、日没の太陽は、日本で見るものと比べとても大きかった!
私が最も信頼するコーヒーインポーターのH氏は、こう語ります。
「アフリカに来るといつも感じることに、自分の精神面が健全であれば、アフリカと言うところは、とてつもないパワーをくれる、けど、少し精神的にネガティブになっていたら、全て吸い尽くされてしまうほどパワーを奪われる」
この国のコーヒーが持つ、とてつもなポテンシャルと、それを活かせない国の事情。
ものすごく素晴らしい味のものが出てきたと思ったら、翌年は全くの空振りに終わることもしばしば。
しかし、どんなに酷いものをつかまされても、それを上回る期待感が、この国のコーヒーにはあります。
これからも、お客様に最高のエチオピアを提供できるよう、日々探求していきたいと思います。
エチオピア編 ひとまずおしまい。