昨年タンザニアとケニアへ行ったときのこと。
ケニアのNCX(ナイロビコーヒーエクスチェンジ)で、次週行われるオークションの出品豆をみたときのこと。
恐らく、日本で自家焙煎をしている人たちは、ケニアのグレードだと【AA】か【AB】悪くても【B】くらいしか目にしたことがないように思う。
実際、私も【C】以下のケニア産コーヒーを見たことはなかった。
しかし、オークションのカタログには、AAから始まりTT、Tという豆がけっこう入っている。
この【TT】【T】は、比重選別したときに軽くてはじかれた豆や、欠けてしまった豆などで、言わば私たちが店でハンドピックをした場合、はじいた欠点豆の集合体とも言えるようなもの。
つい、輸出業者の方に「こんな豆買う人いるんですか?」と訊いたら「これがロースターさんにとっては一番儲かる豆なんですよ」と。
↑NCXのオークション出品豆のサンプルルームで。
私が訪問したときは、まだメインクロップ(主収穫期のもの)ではなく、フライクロップ(少し早く収穫されるもの)だったので、若干クオリティーは悪いものが多く見受けられたが、それにしても【T】グレードのサンプルを見て絶句。
これは、もうハンドピックなどできない、と言うより、私たちだったらハンドピックして欠点豆を取り除くのではなく、この欠点豆の中から使えるものを探すと言った感じかもしれない。
一方で、「これが一番儲かる」という言葉が、喉にひっかかった魚の小骨のように、なんとなく嫌な気分をひきずりながら、NCX視察を続けた。
私たちが仕入れるコーヒー豆だと、どうしても100gあたり販売価格700円を切ることはできないが、世の中にはその半額以下の豆が多く流通している。
つまり、こういった二束三文で買える【T】や【TT】といった豆を混ぜながら、うまく原価調整をして大量販売することで、利益を出すということなのだろう。
ブラジルで言えば、No.4-5(フォー ファイブ)NY市場の基準となるグレードで、No.2よりはかなり安価に流通している。
安価なブレンドベースとして使われているもので、これよりも2段グレードが下がると、輸出基準外=国内消費向けとなる。
(だから、ブラジルの一般的なコーヒー店で飲むコーヒーは決して美味しくない)
実際No.4-5のグレードだと、かなり欠点豆が混入しているし、リオと言われる悪い臭いを出す豆が若干混ざっているのだが、ケニアの【T】はそんなレベルではない。
しかし、それもビジネス。
需要がないところに供給はないわけだから、非難することではないのだが、個人的にはこの豆を見てしまうと、やはり安価なコーヒーは飲みたくないと思ってしまう。
が、裏を返せば、私はコーヒーについては産地へ行って実際にどうなのか確認できるので、安いコーヒーがどんな原料を使っているのか分かるのだが、私の専門外のものについては、どうなのか知る由もない。
でも、こうしてコーヒーの実情を見ると、「安いものには訳がある」ということがよくわかる。
毎日、そんなに高いものばかり食するわけにはいかないが、少なくとも「安さ」だけに走るのは、本当に恐ろしいと実感するひとときであった。