いよいよ今回のテーマ「スペシャルティーコーヒー」についての私の独断と偏見に満ちた解説も最終回。
前回の最後に記載した3つの項目でお話ししたいと思う。
【ヴェルディの豆はスペシャルティーか?】
これについてはYesと答えたいところだが、人によってスペシャルティーの定義が違う可能性もあるので、私個人の私見としては、全てがスペシャルティーと言っても良いものではあるが、世の中の一般的な見方からすると、そうではないものも含まれている可能性はある、というのが答え。
では、そうではない可能性があるものとは何か?と言えば、主に焙煎度合いが深いものになってくる。
主にスペシャルティーコーヒーは、酸味が善し悪しの基準になるため、酸味をほとんど感じない中深煎り以降のものについて、人によっては「良質な酸味が感じられないからスペシャルティーとは言えない」と言うこともあるかと思われる。
では、私の私見として、どうして酸味があまり感じられないものもスペシャルティーと言うのか?分かりやすい例えで(野球好きでなかったら逆に分かりにくいかもしれないけどご了承ください)説明したい。
今年のタイガースは、圧倒的な強さでリーグ優勝を果たした。
そこで、「タイガースのレギュラーは、全員名選手ですか?」という質問をしたら、Yesと答えても差しさわりがないと思う。
最多安打の中の選手、盗塁王の近本選手、3年連続20本塁打の佐藤選手、最優秀防御率の村上投手やセーブ王の岩崎投手などは、もちろん名選手と言えるだろう。
また、キャッチャーの坂本選手は、打率こそ低いものの、好リードでピッチャーを引っ張り、12球団随一の防御率を誇る投手陣を支えてきた。
助っ人としては、物足りない打率とホームラン数でも、ヒットで生還しようとするランナーをアウトにする、捕殺では超一級の能力を見せたノイジー選手。
彼らの能力があったからこそ、優勝できたと言っても過言ではない。
が、名選手の定義は何か?と訊かれたら、スペシャルティーコーヒーの定義同様、一言で表すことなど難しくてできようはずもない。
では、「阪神の選手は全員4番を打てるホームランバッターですか?」と訊かれたら、答えは間違いなくNoになる。
スペシャルティーコーヒーにおいても同様に、「ヴェルディのコーヒーは、全て良質で美味しいコーヒーですか?」と訊かれたら、全てのスタッフに対して、胸を張ってYesと答えるように言うだろうが、「ヴェルディのコーヒーは、全て明るく良質な酸味がありますか?」と訊かれたら、深煎りのコーヒーには酸味がほとんどないのだからYesとは答えられない。
要するに、坂本捕手には、打率ではなく好リードを期待する、佐藤選手には、万全の守備は期待できないが、ここぞで長打を期待する、という風に、コーヒーにおいても、各々の豆が持つ特徴は何なのかを掌握して、その良い部分をいかに焙煎で引き出すか?というのが、コーヒー職人の技だと思う。
ホームランは打てなくても、素晴らしい守備で魅せる選手だって名選手なのに、守備や小技を無視して、ホームランの数だけで全ての選手を評価しようとしたら、野球そのものが成立しなくなる。
コーヒーにおいても、浅く煎ったら渋くて嫌な酸っぱさが前面に出てしまう豆でも、深く煎ったら得も言われぬ甘みが出てくると言うこともある。
ただ、そいう言う豆は、カッピングのスコアが必ずしも高いとは言えない。
要するに、投手の善し悪しを見る判定基準が球速だけの場合、スピードガンで測ったらストレートが最速135キロしかないから、低評価をつけられてしまうものの、抜群のコントロールを持っているかもしれないし、多彩な変化球が操れるかもしれない。
カッピングの点数だけではない、そういったポテンシャルをしっかりと見抜けるかどうか、そして、そのポテンシャルを引き出す焙煎ができるかどうか、ヴェルディの勝負所はそのあたりであう。
そういう意味で、ヴェルディの豆は、スペシャルティーの定義が「酸味」に主眼を置かれているのであれば、全ての豆がスペシャルティーとは言えないが、コーヒーの多様性を認識して、各々の豆のポテンシャルと引き出してお客様にお楽しみ頂くという観点で言えば、全てスペシャルティーと言っても良いのではないかと私は思っている。
【スペシャルティーコーヒーは酸っぱいのか?】
「スペシャルティーコーヒー-1」で書いたが、焙煎が浅い方が、重量が減らないので利益率が高くなる。
アメリカ的利益最優先経営をしようと思ったら、良い味を出すことよりも原価率を低くできる「極浅煎り」にコーヒーを焙煎することが正解だと書いた。
そして、アメリカが一番素晴らしいと勘違いしている人たちが、それにならえで極浅煎りの酸っぱいコーヒーをスペシャルティーとして売っている可能性を指摘した。
が、一部には、アメリカにならえ、でも、本当にあの酸っぱいコーヒーを美味しいと思っている人でもなく、別の理由で極浅煎りにしている人もいるのではないかと書いたのだが、それこそがスペシャルティーコーヒーの持つ落とし穴かもしれない。
カッピング(テイスティング)は、主に極浅煎りのもので行う。
それは、深く煎ると酸味がなくなるので、その豆の持っている「苦み」以外の風味を見られなくなるからであり、浅く煎って酸味の質を見ないと評価できないからである。
が、それは、このカッピング時の極浅煎りという焙煎度合いが美味しいからそうしているのではなく、その豆のポテンシャルを見るためには、極浅煎りにしないと消えてしまう風味成分が多いからということが主たる理由なのである。
しかし、このカッピング時の焙煎度合いが一番コーヒーの味を引き出していると勘違いしてしまうと、極浅煎り一辺倒になってしまう。
ちゃんと焙煎を学んだ焙煎士であれば、極浅煎りのサンプルをカッピングして、この豆は、どんな焙煎度合いに仕上げれば、ポテンシャルをしっかりと弾きだせるかということを考える。
一方、焙煎についてしっかりと修行をせず、趣味の延長で始めてしまったら、カッピングしても、どういった焙煎度合いに仕上げたら、どんな味になるか想像もつかないので、カッピングしたのと同じ焙煎度合いにしてしまっても不思議ではない。
もっと言えば、カッピングの焙煎度合いで、その豆のスコアが決まるわけだから、もし80点をつけられた豆を購入したら、その80点をつけたのと同じ焙煎度合いにしないと、点数がかわってしまう、と思うのかもしれない。
コーヒー豆は選手、焙煎士は監督だとすると、カッピングをして、その選手がホームランバッターなのか、俊足の選手なのか、しっかりと判断して、その選手にあったポジションを与えることで、チームとしての繋がりや全体のまとまりが出てくる。
前監督のときに全く使われていなかった選手が、監督が変わると水を得た魚のように、素晴らしい活躍をする、といったことも珍しくないし、それこそが焙煎士のコーヒー豆を見る眼力と言えよう。
そんなわけで、Qグレーダーなどが高得点をつけて、スペシャルティーコーヒーと評価されたものしかスペシャルティーと認めない人が、その評価されたときと同じ焙煎度合いに仕上げたら、当然のことながら「酸っぱい」コーヒーになってしまう。
しかし、ちゃんと豆のポテンシャルを見抜ける焙煎士の手にかかれば、「酸っぱい」コーヒーではなく「良質な酸味」のコーヒーができあがるわけである。
【お客様にスペシャルティーコーヒーというものをどう説明したら良いのか?】
これは、日記を通してお客様に申し上げることではなく、ヴェルディのスタッフに「このように対応してほしい」と言うものである。
もし、「このコーヒーはスペシャルティーコーヒーか?」と問われたとき。
中煎りまでであれば、自信をもって「Yes」と答えてほしい。
一方、中深煎り以降のものを指して言われた場合、私であればこうこたえる。
「もし、スペシャルティーコーヒーの定義が【酸味】を最重要視しているのであれば、この豆はスペシャルティーとは言えません。
しかし、ヴェルディの豆は、全てオーナーが産地を訪れたり、輸出入業者の方々と、しっかり味(味覚)のすり合わせをして、本当に良いもの、素晴らしいポテンシャルを持ったものだけを使用しています。
中には、現地や日本でQグレーダーがカッピングをして点数をつける前の段階(船積み前)で、産地や輸出入業者との信頼関係だけで取り組んでいるものも少なくありません。そういう観点で見ると、ここに並ぶ豆は、全て自信をもって「良質な豆」と言えますし、オーナーが自信をもって仕入れてきた、入手できる範囲での最高のものばかりです。
どうか、スペシャルティーなどという言葉に惑わされず、本当に良いものをお選び頂ければと思います。」
髙島屋店で今回採用したスタッフの皆は、私から何度も「1しか知らずに1を説明しないように、10を知った上で、1を説明するように」と言われてきたものと思います。
どうか、より広い見分をもって、また、自然の摂理というものに反しているか否かを常に考えつつ、よりお客様に正しく役に立つ情報を提供できるよう、努力して頂ければと思います。