現在販売中で、間もなく売り切れとなる21周年記念の「アジアンブレンド」
アジアのコーヒーと言えば、真っ先に出てくるのはインドネシア。
インドネシアのコーヒーは、おおざっぱな違いで言えば、島によって風味特性が異なるが、同じ島でも地域や精選方法などで、また味わいも変わってくる。
しかし、マンデリンで有名なスマトラはもちろん、バリ、スラウェシ、ジャワといった島々のコーヒーは、完成度の高いものが多く、栽培から精選・流通などが確立されている。
一方、今回使用した「ミャンマー」や「中国」は、まだまだ多くの面で発展途上と言える。
これまでヴェルディでは、世界規模のしっかりとしたコーヒー商社から豆を仕入れていたが、最近アジアの新興産地を中心に、ユニークな仕入れをしているところからのプッシュもあり、ミャンマーと中国を使ってみることにした。
ミャンマーは、良くも悪くも特筆すべきものはないが、焙煎後は渋みが非常に強く、ある程度エイジングをしないと味がまとまらない暴れ馬のような豆。
そして、中国は「ダブルファーメンテーション」ということで、ナチュラル精選の前に一度チェリーをエイジングして発酵させてから乾燥工程に入るという特殊製法。
一応「嫌気性発酵」と書かれていたが、現地プロセスの写真を見ると、どう見ても嫌気性(無酸素)状態で発酵工程をしているようには見えないため、ヴェルディでは嫌気性発酵(アナエロビック)という表現はしていない。
そして、このナチュラル精選前の予備発酵工程で作り出される香りも、ブラジルやコロンビアといったアナエロ先進国のものと純粋な風味で比べると、まだまだ真似事の域を出ない。
ただ、この発展途上のコーヒー2種と、完成度の高いインドネシアの豆をブレンドしたら、思いのほか面白い風味になったので、今回のアジアンブレンド誕生となった。
そんなわけで、面白い風味は作れたが、もう一度使いたいかと言われたら、価格と風味の面で、ミャンマーは可能性がゼロではないものの、中国の豆を仕入れるかと言われたら、もう二度と使いたくない豆の一つであることは確か。
と、言うのも、近年経済発展が著しい中国なので、人件費も高くなっており。豆の品質に対する価格がべらぼうに高いのである。
ブラジルの高級豆と比べると、だいたい1.5~2倍の価格になる。
それだけならまだ良いのだが、欠点豆の混入率は、一般的な中南米のプレミアム品質のものと比べて10~20倍多いというのが困ったもの。
↑これは、ブラジルのナチュラル精選豆で、通常ヴェルディで使っているグレードよりも一つランクが下で、業務用卸のブレンドの中でも、受注者の依頼で特別に安価にするために使っているもの。
と、言っても、店頭で販売しているブラジルと比べて2割程度しか価格は変わらない。
しかし、この豆と中国の豆を比べると概ね2.2倍中国のものが高くなる。
ちなみに、このブラジル豆で、欠点豆混入率は約0.5%。
一方、こちらは中国の豆。
この豆を真面目にハンドピックしたら、3キロのハンドピックで680gも欠点豆が含まれていた。
↓ハンドピックした欠点豆
欠点豆が多いと、当然目減りするから原価そのものも高くなるのみならず、ハンドピックにかかる時間も長くなるため、実質的には仕入れ価格だけではないコストが大きくのしかかってくる。
20年前に使っていた「モカ・マタリ#9」と同程度の豆の汚さなのだが、当時のモカはきちんとハンドピックさえすれば、他に代えがたい芳醇な味だったので、高い値段とハンドピックの手間をかけてでも仕入れたい豆だった。
インドネシアの豆などは、出荷前に現地でハンドピックされてから袋詰めされるが、ブラジルの豆は、まず現地ハンドピックなどしていない。
では、どうして欠点豆が少ないかと言うと、機械選別(カラーソーター)を通しているからで、これをきちんと通したら、先の写真程度のまとまりにはなる。
要するに中国では、まだ機械選別機そのものが導入されていないということになる。
今まで私が視察した国では、最貧国のエチオピアですらカラーソーターが精選所にはあったので、そういう面で中国はまだまだ他の生産国と比べて、スタート段階にも立っていないのかもしれない。
最近、日本では(恐らく日本だけではなく世界的に)コーヒーブームということもあり、コーヒーのことや焙煎の技術を学ぶことなく、趣味の延長線上でコーヒー店を開業する人が多くいるように感じているが、もしかすると中国のコーヒー生産も、それに近い感覚なのかも?
と、思いつつ、先日は最後のアジアンブレンドを焙煎。
ただ、こんなにこき下ろしている中国産の豆も、他の豆と合わせることで、なかなか面白いものができるというのもブレンドの妙。
問題は、仕入れ価格がバカ高い上、ハンドピックで重量が大幅に減り、さらに作ハンドピックにかかる業時間も長くなるため、この豆をストレートで販売するなら100gあたり1,500円は頂かないとキツイような難しい豆。
そういう観点でみたら、やはりブレンドという選択肢になってくるが、ブレンドは単純に【1+1+1=3】というわけではなく、【10+10+10=5】になってしまうこともあるし、逆に【1+2+3=10】になることもあり得る。
コーヒーって、面白いものである。