ティピカ種は、多くの品種の母体となる品種であるため、よく「ティピカ系」とか「ブルボン系」といった表現をされることがあります。
ただ、【ティピカ系】と一言で片づけられるほど簡単なものではなく、現在出回っているアラビカ種のほとんどは、ティピカを源泉としているため、ここでは代表的な品種の中の、ほんの一握りだけを記載するに留まります。
その前に、ティピカの大元である【アラビカ種】の誕生については、「知らなくてもいい珈琲の話-その1」をご覧ください。
さて、【ティピカ種】とは何かと言うと、概ね以下のようになります。
ティピカ種
● 由来
エチオピア~イエメン
ティピカは15~16世紀ごろにエチオピアからイエメンに渡った在来種が元になっていると言われています。
16世紀にババ・ブーダンがインドのマイソールに持ち出したものの中にもティピカが入っていたと思われ、その後インドからジャワ島へ伝わったのが、そのティピカだと言われています。
ジャワ島のティピカは、その後アムステルダムへ渡ります。
そのティピカが1714年にフランスへ渡り、1723年にド・クリューがマルティニーク島へ持ち込んだものが、中南米を中心とした多くの世界で作られる株となりました。
【オランダ~フランス株】以外にも、【オランダ~ギアナ株】や【ジャワ~東アジア株】などもありますが、もとはと言えばたった一本の苗木から広がったものであるため、遺伝子的にも非常に脆弱なため、病害虫に対する耐性もなく、生産性も低い品種と言えます。
しかし、そのティピカが母体品種となり、現在は多くの品種が作られています。
なお、【ティピカ種】と言っても、長い年月の間に土着品種となって、変化をしていったものも多く、細かく分類すると以下のようなものが挙げられます。
【ブルーマウンテン系ティピカ】
1730年頃ジャマイカへ渡ったもの(オランダ~フランス株)が土着化
後年ケニア、カメルーン、パプア・ニューギニアへ渡る。
【グァテマラ系ティピカ】
1700年代後半に、グァテマラへ渡ったもの(オランダ~ギアナ株)
後年ハワイ・コナへ渡る。
【パハリート】
1700年後半にコロンビアへ渡ったもの(オランダ~ギアナ株)
さび病の影響で、壊滅的被害を受ける。
通常のティピカよりも樹高が低いのが特徴。
【クレオール】
1730年代にハイチへ渡ったもの。(オランダ~フランス株)
【ナシオナル】
1727年、ブラジルへ渡ったものが土着化(オランダ~ギアナ株)
その後、ペルーやパラグアイへ渡る。
【ジャワ】
1690年代、インドからジャワ島北部へ渡ったもの。
ジャワ~東アジア株の元となるもの。
【スマトラ(バーゲンダル)】
ジャワから渡ったもの(ジャワ~東アジア株)
ただ、スマトラ島は零細農家が大多数を占め、いろいろな品種が雑多に植わっていることもあり、現在では生粋のスマトラ種を見つけるのは難しい。
【クリオージョ】
1730年頃ドミニカへ渡ったもの(オランダ~フランス株)
【パダン】
スマトラ島東南部で生育されたもので、スマトラ種とも若干違う。
【オールド・チック】
インドで育ったもの。
● 木および豆の特徴
木の高さは3~4メートルに成長するため、手摘み栽培の地域では剪定により樹高を抑える必要がある。
発芽から収穫までは4年ほど。
実のサイズは大きい。
さび病、炭疽病、線虫といった、コーヒーの病害虫に対する耐性がなく、管理の難しい品種である。
生産性は低く、実のつきかたは少ない。
● 風味
風味特性は良いが、所謂「スペシャルティコーヒー」に分類される酸味が強調された味ではなく、バランスよくマイルドで甘みもあり、キレのよい味が特徴。
こうしてみると、ブルーマウンテンやハワイ・コナといった高級豆は、最近もてはやされる、酸味を最大の特徴に挙げる「スペシャルティコーヒー」とは一線を画す、マイルドでクリーミーな味で、純粋なティピカの系譜と言おうか、非常にバランスよくまろやかでまとまった味になっているように思います。
その直結種たちも、また際立った特徴が目立つ味というよりは、とても穏やかでマイルドな風味が印象的なものです。
10年ほど前に販売していた「ハイチ」などは、ブラインドで飲むとブルーマウンテンと間違うほどでした。
そうしてみると、今回販売しているイエメニアもスペシャルティコーヒーのような特徴的な酸味を追求するのではなく、ブルーマウンテンのような穏やかでいてバランスよく、心地よい味わいを楽しめるコーヒーに分類されるのではないかと感じています。
しかし、ティピカがその後多くの個性的な品種の母体となったように、イエメニアもさらなる大きな可能性を持った品種と言えるのではないでしょうか。
そして、今私たちが飲んでいるイエメニアは、「今飲まれているティピカ」ではなく、16世紀にババ・ブーダンが持ち出した頃のティピカのような、本当の「祖」となる味なのかもしれません。