自家焙煎珈琲 カフェ・ヴェルディ

マスターの珈琲放談

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月刊紙コラム

砂糖一つまみ

2023年12月1日 

2023年12月号掲載

 ヴェルディ開業時からのお客様の中に、いつも中煎りのコーヒーをお求めくださっているご夫婦がいらっしゃいます。
最初は、いろいろなコーヒーをお試しになっていたのですが、あるときご相談を受けて、お薦めした豆が気に入って頂けたようで、以後は同じ豆を毎回お求めくださっています。
 どの豆を選べば良いか、ご相談いただいたときに一番思案したことは、こんなことでした。
【奥様は、少し苦みがあって、まろやかなコーヒーがお好み。一方で、ご主人様は、あまり苦みは得意ではなく、軽く飲めるものがお好み。】
 こういったことは、普通にあり得ることで、どんなに仲の良いご夫婦やカップル、ご家族でも、コーヒーの嗜好が違うこともあろうかと思います。
しかし、一緒に暮らしている中で、毎日飲むコーヒーの嗜好が違うと、どちらかが合わせなくてはならなくなります。
 各々のお好みの豆をお求め頂いて、毎回お二人別々のものをお召し上がりになるというのも一つの選択肢ですが、休日で時間に余裕があるときでもない限り、なかなかそうは行きません。
 先日、そんな嗜好の違うご夫婦が店内でコーヒーをお召し上がりになったときのこと。
限定販売だった「スマトラ・ナチュラル」をご注文下さり、奥様は「とても好きな味」と言ってくださったのですが、ご主人様は「私には少し味が強い」というご感想をお持ちになりました。
そこでご提案したのが「ほんの少しだけ砂糖を入れてみてはいかがでしょうか?」ということでした。
 砂糖を入れると言ったら「甘いのはちょっと・・・」とおっしゃる方も少なくないと思います。
しかし、「甘くするほどではなく、ほんの少し、ティースプーンに1/4ほど入れてみてください。」と試して頂きました。
すると、「すごく軽くなった」と言って頂けました。
 コーヒーに砂糖を入れるのは、甘みをつけるため、という風に考えがちですが、甘くならない程度に、ほんの少しいれることで、実は苦みを抑えてコーヒーの味を軽くすることができるのです。
これは、コーヒーの中の成分に砂糖が変化を与えて、苦みの成分を包み込むような役割を果たすからなのです。
 ただし、純粋なコーヒーの苦みは抑えられますが、欠点豆が持つ悪い味や、焙煎後に時間が経ってしまって劣化した酸敗臭などは抑えられません。
 ちょっと意地悪なことですが、ヴェルディのスタッフが自店以外のコーヒーを飲むとき、最初はブラックで飲んでみて、次に砂糖を少しだけ入れて飲むことが少なくありません。
そうすることで、そのコーヒーが、しっかり欠点豆を取り除けているか、焙煎が的確か、豆が新鮮かどうかを判断する材料になるからです。
 話がそれましたが、ご夫婦やご家族など、一緒に暮らす人のコーヒーに対する嗜好が違うとき、特にコーヒーの苦みに違いがあるときは、砂糖一つまみで苦みをコントロールできるということを知っていると、より楽しいコーヒーライフが送れるのではないかと思います。
ぜひお試しください。

伝統と実情

2023年11月1日 

2023年11月号掲載

 先月号では、「伝統と流行」というテーマで、今流行りの【アナエロビック】や【インフューズド】について書きました。
その後、私もいろいろと考えたのですが、やはり個人的には生産国・地域・気候などにマッチした伝統品種を伝統的な精選方法で仕上げたコーヒー、コーヒーらしい味わいのコーヒーが好き、と言うか、そういうコーヒーを飲むとホッとします。
一方で、よりキャラクターの強いコーヒーを求める方も多く、その行きつく先がインフューズドコーヒーなのだと思います。
 そんな、ある意味古臭い私ではありますが、実際に飲まずに、いや、自分で焙煎もせずに意見を言うのは間違っていると思い、今月はインフューズドコーヒー「ブラジル・スイートフラワー」を提供することにしました。
このコーヒーを作っているのが、コーヒーに対しての熱意が凄い、私も大好きな生産者である、マッタデミナスのヴィセンチ・ファリア氏であることも背中を押した理由の一つかもしれません。
 今回販売する「ブラジル・スイートフラワー」キワものととるか、新たな味の創造ととるか、皆様のご判断も仰ぎたいと思います。
 さて、先月は「伝統と流行」という表題で書きましたが、今回は「伝統と実情」ということを書きたいと思います。
 私もティピカやブルボンといった伝統品種を好む傾向にありますが、一方でそういった伝統品種は、病害虫に弱く生産性も高くないという面があります。
中でも、現在出回っているアラビカ種のほぼすべての母体品種と言える「ティピカ種」は、その最たるところで脆弱にして生産性が悪い品種です。
しかも風味特性という点では「マイルドでクセのない味わい」。
そう言うと聞こえはよいものの、逆に言うと際立った個性がないので、近年のスペシャルティーコーヒー市場においては、あまり人気の高い品種とは言えません。
コーヒーの品評会として高い権威を持つ「カップ オブ エクセレンス」でも、過去の上位入賞豆は、ゲイシャやカトゥアイ、パカマラ種などが並び、ティピカが1位を獲得したという記憶はありません。
そうしてみると、伝統的な品種よりも、風味を良くしようと改良された品種や、ある意味伝統品種ではありますが、ゲイシャのような、際だった個性を持つ品種が重宝されていると言えるでしょう。
昨年タンザニアへ行った折、TCB(タンザニアコーヒーボード)のトップは「キリマンジャロコーヒーの産地、モシ市は伝統的な「ブルボン」と「ケント」(インドで発見されたティピカ種の変異種)がほとんどだ、と胸を張って言いました。
しかし、農園へ行ってコーヒーの木を見ると、どうもブルボンとは思えません。
そこで、農園の人に聞いたら「TCBも推奨するコンパクトを植えている」と言います。
 コンパクトとは、現地での流通語で一般には「カチモール種」のことです。
カチモールは、「カツーラ」と「ハイブリッドティモール」の配合種。
「カツーラ」は、ブラジルで発見されたブルボンの突然変異で、ティピカの3倍程度の生産性を誇ります。
「ハイブリッドティモール」は、ティモールで発見されたアラビカとカネフォラ(ロブスタ)のハイブリッド品種で、病害虫に強く生産性も高い品種です。
 つまりTCBは、表向「伝統品種を守っている」と言いつつ、実は生産性を求めていることになります。
 では、カチモール種が美味しくないかと言われたら、決してそんなことはなくて、タンザニアらしいマイルドでコクのある甘い味わいが楽しめます。
カチモールの品種特製と、タンザニア・キリマンジャロ地域の土壌や気候がマッチしていたのでしょう。
それでも「伝統品種を栽培している」と言う裏には、ハイブリッド品種に対する負い目と、伝統こそ良いものという感覚に基づいているのかもしれません。
 品種はコーヒーの味を左右する非常に重要なものではありますが、実際の農家は生活がかかっているので、どうしても生産性の高いものを求めます。
生産国においては、味を求めて品種を変えて、高付加価値・高額な豆を作ることで利益につなげる大農園があるのに対して、それができない小規模零細農園においては、いかに風味を維持しつつ、高生産性を求めるか、
「伝統的」を主張しつつも、実情がそれを許さないということもあると思います。
いろいろと考えさせられたタンザニア視察でした。

伝統と流行

2023年10月1日 

2023年10月号掲載

 9月末、SCAJ(日本スペシャルティコーヒー協会)のカンファレンスへ行ってきました。私は第一回開催時から、毎年足を運んでいますが、今年は過去最多の来場者だったようです。
特に、今までは業界関係者がほとんどだったところ、今年は入場プレートに書かれたゲストの区分に「一般」が多かったように思います。
 そんな光景を目にすると、世間のコーヒーに対する関心が高くなっていることを感じますが、同時に私たちコーヒーに携わる者は、プロとして正確な知識と幅広い見分を持ってお客様に接しなくてはならないという思いも強くなります。
 お知らせの通り、ヴェルディは10月17日に京都髙島屋S.C.T8 に新しいお店を出店させて頂きます。
今回はコーヒー豆販売が中心の店舗であるため、スタッフにはより深くコーヒーに対する知識が求められます。
 さて、今回SCAJのブースを回って感じたことの一つに、「アナエロビック」(嫌気性発酵製法)と「インフューズドコーヒー」(コーヒー生豆を精選する途中段階で、ハーブやフルーツ、スパイス等を漬け込んで発酵させる製法)が非常に多く出品されていたことがあります。
ヴェルディでも、ブラジルのアナエロビック「フルッタメルカドン」を登場初期段階から販売していますが、そのときはまさかこんなに広がるとは思ってもみませんでした。
アナエロビックは、伝統的な「ウォッシュド」「ナチュラル」「パルプドナチュラル」などと比べ、強烈な個性を主張できる一方、生産国や地域、品種等が持つ個性よりも、嫌気性発酵という精選方法が持つキャラクターの方が強く出てしまい、生産国や品種の持つ味わいを覆いつくしてしまう部分があります。
 インフューズドコーヒーは、さらにハーブやフルーツ、スパイスといったコーヒー以外の香りがつくことから、もはやコーヒーと言うより「コーヒーを用いたフレーバードリンク」と化してしまいます。
 ただ、それが単純に「悪いこと」と言うわけではなく、ある種面白い試みだとは思いますが、同時に素材本来が持つ風味がどこかへ行ってしまうことは、少々悲しい現実という思いもあります。
 一方で、こういった外付けの味というものが、極最近登場したものかと言うとそうでもなくて、アラビカコーヒー発祥の地、エチオピアでは、コーヒーの皿に「テオアダム」というハーブが添えられてくることも多く、このハーブをコーヒーに少しつけて、しゃばしゃばすると、コーヒーの味にココナツのような甘みが加わり、なんとも夢心地な風味になります。
 そうしてみると、コーヒーを純然たるコーヒーとして楽しむだけではなく、いろいろとアレンジして楽しむということは遠い昔から繰り返されてきたことになります。
このアナエロビックやインフューズドが、今後どうなっていくのか。
流行も100年続けば伝統になります。
個人的には、素材本来の風味を活かしたコーヒーが好きではありますが、今後の動向を楽しみに見ていきたいと思います。

エチオピアでコーヒーに添えられた「テオ アダム」

美味しい珈琲・良い珈琲

2023年9月1日 

2023年9月号掲載

先月号の一面で、
「美味しい珈琲=良い珈琲」を目指して
と書いたところ、何人かのお客様から「美味しい珈琲と良い珈琲は違うのか?」というご質問を頂きました。
先月は、文字数の関係で詳しく書けなかったため、今回は「美味しい珈琲」と「良い珈琲」について書いてみたいと思います。

【美味しい】【美味しくない】は、【好き】【好みではない】とリンクします。
私が美味しいと思っても、他の人が必ずしも美味しいと思うとは限らないのが、味についての個人の好みというもの。
ほとんどの場合、何かを食べた・飲んだ感想は、「美味しい」と表現していても、実は「自分の好みか否か」だけであると言っても過言ではないでしょう。

一方で、「食」を仕事にしている場合、必ずしも自分が好きな味のものが、広く一般に好まれるとは限らないということを嫌が応でも知ることになります。
そこで、客観的に【好き】【好きではない】ではなく、この味が世間一般に受け入れられるかどうか、と言う観点で味を考えることになります。

コーヒーについて考えてみると、珈琲は嗜好品なので、人それぞれ好みは千差万別、ある種ニッチを極めることが嗜好品としての珈琲の王道かもしれません。
ただ、珈琲店を営んでいたら、ものすごく珈琲が好きな人も来店されると同時に、さして珈琲が好きではないけど、友人とおしゃべりするために来店するという方もいらっしゃいます。
そこで、嗜好品として、いろいろな風味のラインナップを揃えると同時に、何方が飲んでも、少なくとも【好きではない】と思われることのない珈琲を出すことも必要になります。
ヴェルディで言えば、「ヴェルディブレンド」がそれにあたり、特にご指定がなければ、こちらを提供することになります。

では、嗜好品としての珈琲を考えたらどうなのか?
【美味しい】【美味しくない】の基準を【好き】【好きではない】だけで判断されたら、ちょっと厳しいことになりますが、ある程度珈琲を深く楽しんでいる方であれば、「好きではない、けど客観的にみると美味しい珈琲」というのもあるということが分かると思います。
これは、経験によってしか身につかないもので、珈琲に限らず、全ての食べ物でも言えること。
例えば洋菓子店へ行ったとき、自分の好みからしたら、少し甘すぎて好きではないが、良い材料を使って、丁寧に作られていることが分かれば、決して「好きではない=美味しくない」とはならないと思います。

つまるところ、美味しい・美味しくないは個人の好みでも、珈琲を飲みなれた人なら、それが低級品をテキトーに焙煎したものではなく、良い豆をしっかり丁寧に焙煎したものだと分かって頂ける商品を作ることが大切なのだと思います。
ヴェルディは、本当に良い生豆だけを仕入れて、しっかりハンドピック、丁寧に焙煎をして提供することを最も重要な部分として営業しています。
それが、良い珈琲の基本であり、そんな良い珈琲を美味しいと思って頂ければ、この上ない喜びと言えるでしょう。

エチオピア在来種

2023年8月1日 

2023年8月号掲載

 コーヒーの品種と言うと、ティピカ種やブルボン種、最近流行りのゲイシャ種などが挙げられます。
そんな中、恐らく現在世界にあるコーヒーの品種の7割以上はエチオピアにあるのではないかと言う人もいます。
 エチオピアとイエメン以外の生産国から届く豆のデータには、先に書いたような品種の名前が書かれていますが、ことエチオピアについては「在来種」と書かれていることが一般的です。
この「在来種」というのは何を意味するのでしょうか?
 エチオピアがアラビカ種発祥の地なので、大別して言えばエチオピアの豆は全て「アラビカ原種」なのですが、細かく見ていくと、地方によって品種が違うということが見えてきます。
 エチオピアの産地で有名な地名を挙げると、古くは「シダモ」、近年は「イルガチェフェ」や「グジ」、そしてカフェの語源になったとも言われる「カッファ」などがあります。
他にも「レケンプティ」や「ジマ」「ハラー」なども良質な産地として知られていますが、同じ「エチオピア」でも地方によって味わいはずいぶん違ってきます。
例えば、イルガチェフェはブルーベリーや紅茶のような風味、グジはフローラルな香りなのに対して、カッファはナッツのようなアロマとしっかりしたボディ。
ジマは酸味とボディのバランスが秀逸といった傾向があります。
 そんなエチオピアの地方ごとの特徴ですが、カッファでティーライクなアロマを出したいと思って、イルガチェフェの苗を移植しても、全く風味が出ないといったことがあります。
 私がエチオピアの農園を訪問したとき、木の間隔やシェードツリー、そして何より本当に素晴らしい土壌に、良好な日当りの、これ以上求められないような農園を視察しました。
そこで植えられていたのは、エチオピア政府が推奨する品種「74140」というものでした。
これは、ジマにある農業調査局が、自生しているコーヒーの木の中から病害虫に強い木だけを選出して作った品種番号です。
この木が自生していた地域においては、他の木よりも病害虫に耐性があり、高い生産性を持つ木だったのですが、それを他の土地に持って行った場合、病害虫には強くても、必ずしも風味の面で「美味しい」ものができるとは限らないのが面白いところです。
 私も訪問した農園が、あまりにも素晴らしかったので、そこで栽培している74140の豆を仕入れたものの、残念ながら期待していた味には及びませんでした。
 しかし、それから数年が経った今、だんだんその地域の土壌や気候に慣れてきたのか、味も良くなってきました。
このように、エチオピア在来種は、もともと自生していた木が、何百年という歳月をかけて、その土地の気候風土に合った品種になっていると言えるでしょう。
 大別した地域(イルガチェフェやカッファ等)のみならず、同じ地域でも隣村のコーヒーが美味しいからと、木を移植したものの、期待通りの風味がでなかったという話も耳にします。
 エチオピアの豆に付けられている「在来種」の名称、これは単にエチオピアの原種というだけではなく、長い歴史とともにその地で育ち、醸造された風味を意味しているのです。

ブラジルのSDG’s

2023年7月1日 

2023年7月号掲載

 先日、ブラジルのセラード地域コンテスト優勝農園(ウォッシュド部門・ナチュラル部門)のお二人がヴェルディにお越し下さいました。
その折に、自分たちの農園がどのような取り組みをして、より良質なコーヒーを作っているかをお話になったのですが、それが、目からうろこの内容でした。
 「私たちは、コーヒーチェリーを発酵させて有機肥料を作っています」というところまでは、けっこう「ふむふむ」という感じだったのですが、「実はわざと雑草を植えています。」というお話になって、私の頭の中は「???」になったのです。

聞けば、この雑草を好む虫が、コーヒーの木の葉を食い荒らす虫の天敵だそうで、
この雑草を植えることによって、農薬を最小限に抑えて害虫駆除ができるということでした。

以前、セラード珈琲の社長から、ブラジルで現在取り組んでいるコーヒーの木の新たな栽培方法を伺う機会がありました。それは何かというと「森の微生物活用」です。
自然の森は、多くの植物・動物・虫が混在し、それらがしっかりとかかわりを持ちながら、共存しています。
さらに、目に見える植物や虫だけではなく、土の中にいる微生物までもが、そのサークル オブ ライフに大きな影響を与えています。
そこで、自然の森の微生物を研究することによって、栽培地の土中に微生物を入れて、土壌そのものを改良することにより、農薬や化学肥料を使うことなく生産性を上げようという試みが始まっているということでした。
 私たちが生活している中でのSDG’sと言えば、プラごみを減らそうとか、資源ごみはきちんとリサイクルしよう、とかそんなことが思い浮かびます。
一方で、ブラジルのコーヒー生産者たちの間では、自然を見つめ直すことによって、不要に人工的な肥料や農薬を使うのではなく、自然の一環としての栽培とは何かを問うという姿勢が、徐々に広まっていて、そういう活動をしている方がコンテストのチャンピオンになっています。
今年の優勝ロット、そんなことも考えながら飲んでみると、より味に深みがあるような気がしてきます。

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