2023年8月号掲載
コーヒーの品種と言うと、ティピカ種やブルボン種、最近流行りのゲイシャ種などが挙げられます。
そんな中、恐らく現在世界にあるコーヒーの品種の7割以上はエチオピアにあるのではないかと言う人もいます。
エチオピアとイエメン以外の生産国から届く豆のデータには、先に書いたような品種の名前が書かれていますが、ことエチオピアについては「在来種」と書かれていることが一般的です。
この「在来種」というのは何を意味するのでしょうか?
エチオピアがアラビカ種発祥の地なので、大別して言えばエチオピアの豆は全て「アラビカ原種」なのですが、細かく見ていくと、地方によって品種が違うということが見えてきます。
エチオピアの産地で有名な地名を挙げると、古くは「シダモ」、近年は「イルガチェフェ」や「グジ」、そしてカフェの語源になったとも言われる「カッファ」などがあります。
他にも「レケンプティ」や「ジマ」「ハラー」なども良質な産地として知られていますが、同じ「エチオピア」でも地方によって味わいはずいぶん違ってきます。
例えば、イルガチェフェはブルーベリーや紅茶のような風味、グジはフローラルな香りなのに対して、カッファはナッツのようなアロマとしっかりしたボディ。
ジマは酸味とボディのバランスが秀逸といった傾向があります。
そんなエチオピアの地方ごとの特徴ですが、カッファでティーライクなアロマを出したいと思って、イルガチェフェの苗を移植しても、全く風味が出ないといったことがあります。
私がエチオピアの農園を訪問したとき、木の間隔やシェードツリー、そして何より本当に素晴らしい土壌に、良好な日当りの、これ以上求められないような農園を視察しました。
そこで植えられていたのは、エチオピア政府が推奨する品種「74140」というものでした。
これは、ジマにある農業調査局が、自生しているコーヒーの木の中から病害虫に強い木だけを選出して作った品種番号です。
この木が自生していた地域においては、他の木よりも病害虫に耐性があり、高い生産性を持つ木だったのですが、それを他の土地に持って行った場合、病害虫には強くても、必ずしも風味の面で「美味しい」ものができるとは限らないのが面白いところです。
私も訪問した農園が、あまりにも素晴らしかったので、そこで栽培している74140の豆を仕入れたものの、残念ながら期待していた味には及びませんでした。
しかし、それから数年が経った今、だんだんその地域の土壌や気候に慣れてきたのか、味も良くなってきました。
このように、エチオピア在来種は、もともと自生していた木が、何百年という歳月をかけて、その土地の気候風土に合った品種になっていると言えるでしょう。
大別した地域(イルガチェフェやカッファ等)のみならず、同じ地域でも隣村のコーヒーが美味しいからと、木を移植したものの、期待通りの風味がでなかったという話も耳にします。
エチオピアの豆に付けられている「在来種」の名称、これは単にエチオピアの原種というだけではなく、長い歴史とともにその地で育ち、醸造された風味を意味しているのです。


