2023年11月号掲載
先月号では、「伝統と流行」というテーマで、今流行りの【アナエロビック】や【インフューズド】について書きました。
その後、私もいろいろと考えたのですが、やはり個人的には生産国・地域・気候などにマッチした伝統品種を伝統的な精選方法で仕上げたコーヒー、コーヒーらしい味わいのコーヒーが好き、と言うか、そういうコーヒーを飲むとホッとします。
一方で、よりキャラクターの強いコーヒーを求める方も多く、その行きつく先がインフューズドコーヒーなのだと思います。
そんな、ある意味古臭い私ではありますが、実際に飲まずに、いや、自分で焙煎もせずに意見を言うのは間違っていると思い、今月はインフューズドコーヒー「ブラジル・スイートフラワー」を提供することにしました。
このコーヒーを作っているのが、コーヒーに対しての熱意が凄い、私も大好きな生産者である、マッタデミナスのヴィセンチ・ファリア氏であることも背中を押した理由の一つかもしれません。
今回販売する「ブラジル・スイートフラワー」キワものととるか、新たな味の創造ととるか、皆様のご判断も仰ぎたいと思います。
さて、先月は「伝統と流行」という表題で書きましたが、今回は「伝統と実情」ということを書きたいと思います。
私もティピカやブルボンといった伝統品種を好む傾向にありますが、一方でそういった伝統品種は、病害虫に弱く生産性も高くないという面があります。
中でも、現在出回っているアラビカ種のほぼすべての母体品種と言える「ティピカ種」は、その最たるところで脆弱にして生産性が悪い品種です。
しかも風味特性という点では「マイルドでクセのない味わい」。
そう言うと聞こえはよいものの、逆に言うと際立った個性がないので、近年のスペシャルティーコーヒー市場においては、あまり人気の高い品種とは言えません。
コーヒーの品評会として高い権威を持つ「カップ オブ エクセレンス」でも、過去の上位入賞豆は、ゲイシャやカトゥアイ、パカマラ種などが並び、ティピカが1位を獲得したという記憶はありません。
そうしてみると、伝統的な品種よりも、風味を良くしようと改良された品種や、ある意味伝統品種ではありますが、ゲイシャのような、際だった個性を持つ品種が重宝されていると言えるでしょう。
昨年タンザニアへ行った折、TCB(タンザニアコーヒーボード)のトップは「キリマンジャロコーヒーの産地、モシ市は伝統的な「ブルボン」と「ケント」(インドで発見されたティピカ種の変異種)がほとんどだ、と胸を張って言いました。
しかし、農園へ行ってコーヒーの木を見ると、どうもブルボンとは思えません。
そこで、農園の人に聞いたら「TCBも推奨するコンパクトを植えている」と言います。
コンパクトとは、現地での流通語で一般には「カチモール種」のことです。
カチモールは、「カツーラ」と「ハイブリッドティモール」の配合種。
「カツーラ」は、ブラジルで発見されたブルボンの突然変異で、ティピカの3倍程度の生産性を誇ります。
「ハイブリッドティモール」は、ティモールで発見されたアラビカとカネフォラ(ロブスタ)のハイブリッド品種で、病害虫に強く生産性も高い品種です。
つまりTCBは、表向「伝統品種を守っている」と言いつつ、実は生産性を求めていることになります。
では、カチモール種が美味しくないかと言われたら、決してそんなことはなくて、タンザニアらしいマイルドでコクのある甘い味わいが楽しめます。
カチモールの品種特製と、タンザニア・キリマンジャロ地域の土壌や気候がマッチしていたのでしょう。
それでも「伝統品種を栽培している」と言う裏には、ハイブリッド品種に対する負い目と、伝統こそ良いものという感覚に基づいているのかもしれません。
品種はコーヒーの味を左右する非常に重要なものではありますが、実際の農家は生活がかかっているので、どうしても生産性の高いものを求めます。
生産国においては、味を求めて品種を変えて、高付加価値・高額な豆を作ることで利益につなげる大農園があるのに対して、それができない小規模零細農園においては、いかに風味を維持しつつ、高生産性を求めるか、
「伝統的」を主張しつつも、実情がそれを許さないということもあると思います。
いろいろと考えさせられたタンザニア視察でした。


