2022年8月号掲載
私が珈琲屋を始めると言ったとき、結核の権威でイエメンでも医療の現場に従事されていたドクターがこんなことをおっしゃいました。
「イエメンは非常に貧しい国なので、一般人はコーヒーを飲めない。コーヒーチェリーからコーヒー豆(種)を取り出した後の皮を乾燥させた『キシル』というものを湯に浸して飲んでいる。」
この話を聞いたとき、少なからずショックをうけましたが、その後輸出業者の方などと話をしていると、実はイエメンではコーヒーよりもキシルの方が人気で、むしろ綺麗な(原形を留めた)キシルを作るために、コーヒーそのものの精選がないがしろにされがちだということを教えてもらいました。
どうりで、イエメンの豆はハンドピックにてこずるものが多かった!
今から千数百年前、コーヒーが発見されて伝播していった頃は、種を煎って粉砕して湯に浸して飲む、今の飲用方法ではなく、果肉をそのまま食べたり、獣肉と混ぜて食べられたりしていたようです。
アラビカコーヒー発祥の地、エチオピアは今でも生肉を食べる習慣があるため、肉の臭みをとるのにも一役買っていたかもしれません。
そうしてみると、種より果肉を乾燥させて湯に浸して飲む方が、本来の用法としてはスムーズだったのかも、と思います。
そんなキシル、今では同様のものを「カスカラ」と呼び、ポリフェノールの含有量が赤ワインの10倍というスーパーフードとして世界的に人気が高まっています。
ヴェルディも芸大店で、じわじわと人気が出てきており、今月号ではアイスカスカラ茶の作り方もご紹介しています。
このアイスカスカラ茶、私も愛飲しており、少し疲れた時などに飲むと、頭がスキっとして、ちょっと元気が出る気がします。
そもそもコーヒー発見の伝説である「山羊飼いカルディ」の物語は、ヤギがコーヒーの実を食べてハイになっていたのを見たカルディ少年が、これを持ち帰り食べたところ、気分が高揚したというお話。
日本では、まだ新しいカスカラ茶、しかし、イエメンでは1,000年以上の伝統ある飲用法。
厳しい山岳地帯の人々が健康でいるための知恵かもしれません。


