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珈琲の品種

珈琲の品種-7【ブルボン-2】

2021年10月9日 

前回に引き続き、ブルボン種について書いて行きます。

今回も、まずはブルボン種の非常にアバウトな系譜を載せておきます。

【イエローブルボン】

● 由来

イエメンよりレユニオン島(旧ブルボン島)へ伝搬した「ブルボン種=レッドブルボン」とティピカの中でも熟すと黄色くなるもの(アマレロ デ ボッカツ)が自然交配してできたものと言われる。

● 風味

マイルドで飲みやすく、風味特性は良い。

レッドブルボンよりも甘みが強いとも言われるが、品種の問題なのか農園などの管理の問題なのかは不明。

● 木および豆の特徴

ティピカよりも2~3割多く収穫できるが、他の高生産性品種と比べると、収穫量は少な目。

実のサイズは比較的小さめ(レッドブルボンも同様)で、スクリーン16以下がメイン。

熟すまでのスピードは速め。

【ピンクブルボン】

● 由来

他品種との自然交配、または突然変異と言われているが、正確には不明。

熟すとピンクっぽいオレンジがかった赤い色になる。

● 風味

他のブルボン種とは風味の面で大きく違い、浅煎りだとゲイシャに似た特徴を持つが、ゲイシャと比べると実が硬いため、非常に酸味が強く出てしまう。

中煎りの後半まで焙煎を進めたほうが飲みやすいが、ゲイシャっぽさは失われて、独特のコクと甘みを楽しめる。

ゲイシャの場合、ここまで焙煎を進めると完全にキャラクターが損なわれるので、そういう面ではやはりブルボンと言える。

【モカ】

● 由来

レユニオン島由来のブルボン種の突然変異と言われているが、ブルボンとは形状や風味が違うことから、イエメンから渡った中の別品種ではないかという説もある。

現在は、マウイ島で栽培される「マウイモカ」と一部ブラジルでも生産されている。

● 木および豆の特徴

非常に小粒で丸っこい。

ヴェルディでも一度販売をしたが、小さなピーベリーという感じで、ブルボンというイメージは全くない。

樹高は低く、さび病には強いが生産性が非常に低いため、ほとんど栽培されていない。

● 風味

風味は良くて、マイルドでクリアで甘みもある。

標高が低いところでも、高いカップクオリティーを発揮できる豆。

【カツーラ】

● 由来

ブラジルのミナスジェライス州で発見されたブルボンの突然変異種。

1910年に確認されているが、正式にカツーラ(カツゥーラ)種として世に出たのは1935年頃。

● 木および豆の特徴

樹高は低く、非常にコンパクトな木。

元の品種よりも小型化した「矮小種」と言われる。

しかし、生産性は高く、ティピカの2~3倍の収穫量を誇る。

一方で、非常に土中の栄養を要するため栽培にはケアが必要とされ、年間降雨量も2,500~3,000mmは必要とされる。

生産性が高いため、人気の品種ではあるが、さび病に対する耐性が低く、いったん病気が流行り出すと壊滅的な影響を受ける品種でもある。

● 風味

ブルボン直系だけに、風味特性は優れおり、標高が高くなるほど風味も良くなる。

一方で、標高が高くなると、生産性が落ちてくるので、高生産性品種としての優位性が落ち、さび病のリスクと天秤にかけると、難しい選択を余儀なくされる。

● 一言

ブルボン直系の高生産性品種ということもあり、他品種との交配が非常に活発に行われている品種。

カツアイ(カトゥアイ)やカチモールといったハイブリッド品種の元になっている。

カツーラも、熟すと黄色くなる「イエローカツーラ」があり、ブラジルの中でもマッタデミナスとエスピリットサント州の州境あたりの高地でよく栽培されているが、現地では「イエローカツーラ」と言わず、そのあたりの地名から「イエローカパラオ」と呼ばれている。

実際、遺伝子的にはイエローカツーラとイエローカパラオは若干違うらしい(現地の人談)

【ヴィジャサルチ】

● 由来

正確な記録がないので不明だが、1920年~1950年の間あたりに、コスタリカで発見されたブルボンの突然変異種。

コスタリカのアラフェラ州(首都・サンホセにほど近い場所)の北西部にある「サルチ」という町で発見されたことからヴィジャサルチ(ビジャサルチ)と命名された。

● 風味

ブルボンのフルーティーさを持つ良好な風味。

● 一言

高地での栽培に適しているが標高1,200~1,500mmでも良好な風味を出せることから、コスタリカ国内では栽培が広がったものの、病害虫への耐性が低いことから今では下火となっている。

【パーカス】

● 由来

1950年頃、エルサルバドルのサンタ アナにあるアルベルト・パーカスという人の農園で発見されたブルボンの突然変異種。

● 木および豆の特徴

カツーラと同様に、木がコンパクトな所謂「矮小種」の特徴を持っている。

生産性は通常のブルボンより高いものの、カツーラほどではない。

しかし、低地での栽培に適しており、干ばつなどにも強く、栽培される土が多少肥養さを欠いても育つ特徴がある。

同じ矮小種でも、土中の養分が多く、2,500~3,000mmの降雨量を必要とするカツーラとは逆の特性を持っている品種。

● 風味

ブルボンの特徴をしっかりと受け継いでとても良好な風味。

● 一言

エルサルバドルのコーヒー研究所で、優良種(同じ品種の中でも特に優れたものを選別する)の選別が重ねられた結果、現在でもエルサルバドルの栽培品種の25%近くを占めるシェアを持つ。

ただ、小粒であることから、エルサルバドル以外の国では、ティピカの突然変異で大粒の品種「マラゴジッペ」と掛け合わせた「パカマラ種」が多く栽培されている。

珈琲の品種-8【ハイブリッド-1】

2021年10月9日 

今回から2回に分けて、ハイブリッド品種について説明いたします。

ハイブリッド品種とは、文字通り異品種交配により両方の品種の良いとこどりをすることを前提に作られた新品種です。

そう言うと、なんだか人工的で良くないもののように思われるかもしれませんが、現在スーパーに並んでいる野菜・果実・穀物・畜肉などのなかで、全く交配されていない、純粋な原種あるいは在来種と言えるものがどの程度あるでしょうか?

本当に人間が品種改良のために手を加えていないものだけを食べようと思ったら、山へ山菜を摘みに行き、野生の動物を狩って食べる他ないのではないかと思います。

家庭菜園と言えば、なんとなく人工的なことを何もしていないように感じるかもしれませんが、庭やバルコニーに植える野菜や果物の種は、ほぼ全て研究所で交配して作られたものですし、家畜を飼って玉子や鶏、豚などを食料にしようと考えた場合でも、野生と同じ血統のものは、皆無と言っても良いでしょう。

コーヒーも同じで、人の手で交配したことのないものを求めた場合、エチオピアかイエメンで自生しているコーヒーを摘み取るしか方法はないのではないかと思います。

前置きが長くなりましたが、今回からはそんな交配によって作られた新しい品種について書きたいと思います。

ただ、ここで前提として、「ハイブリッド」は「アラビカ」同士の掛け合わせではなく、「カネフォラ(ロブスタ)」あるいは「リベリカ」とアラビカを掛け合わせて作られたものを指します。

上の図で言えば、「ムンドノーボ」や「カツーラ」「カツアイ」はハイブリッドではなく、単なるアラビカの交配合種です。

なぜそう定義するかと言うと、アラビカは風味こそ豊かですが、高地栽培が必要であったり、病害虫に対する耐性が低いものが多かったり。

一方でカネフォラ(ロブスタ)は、最高気温が高くなる低地でも栽培ができることや、病害虫に強いという特性があります。

そこで、風味良く、しかし低地でも栽培でき、さらに病害虫に強い品種を作ろうとした場合、異種配合が必要になります。

少し前は、このようなハイブリッドのことを「アラブスタ」などと揶揄する傾向もありましたが、ものによってはむしろ風味特性として他にはない面白いキャラクターを持っているということもあります。

ヴェルディでも、コロンビアをウイラ産からナリーニョ産に買えたとき、あえて品種はコロンビアの伝統的な品種ともいえる「カスティージョ」にしました。

ロブスタの良いところ(良いと言うべきかは意見が分かれますが)として、ブレンドを作るときに少量混ぜるだけで、風味のベースができて味が安定するということがあります。

そのため、安価なブレンドにはロブスタを混ぜることが多いのですが、ハイブリッド品種でもあるカスティージョにも同様の傾向があり、ブレンドに使うことで風味が安定するという利点もあります。

しかし、焙煎を少し深くしてしまうと、途端にロブスタの悪い面がでてきて苦みが重くなってしまうため、焙煎には非常に気を遣う品種でもあります。

珈琲の品種-9【ハイブリッド-2】

2021年10月9日 

現在流通しているコーヒーの品種は、大別して3つに分けられることから「3大品種」と言われています。

それは、

1,アラビカ種:酸味・香りが良く、様々なキャラクターがある高級品種

2,ロブスタ種(カフェフォラ):酸味はほとんどなく、深めに煎ると苦みと独特の重い油脂系の香り(通称ロブ臭)がする普及価格帯品種

3,リベリカ種:アフリカ中南部を中心として流通している普及価格帯品種。酸味・香りには多くを期待できず、やや重い苦みが特徴。

そして、これとは別に

4,ハイブリッド品種:上記1~3を掛け合わせて作られた新品種

というのが、第四の品種として流通しています。

今回は、それらハイブリッド品種について個別に説明していきます。

● ハイブリッドティモール

1920年代、ティモール島の農園で発見された自然交配によるハイブリッド品種第一号。

それまでアラビカ種とカネフォラ種は自然交配しないと考えられていましたが、その一般論を覆し、ティモール島のアラビカ種を栽培する農園で発見されました。

ただ、これはたまたま染色体数が変異したロブスタ種と近くで栽培されていたアラビカ種が自然交配して誕生しました。

このハイブリッドティモールは、アラビカ種との交配が可能であったため、その後のハイブリッド品種の母体となり、多くの品種を排出することになります。

● カチモール

ハイブリッドティモールとカツーラの配合種。

1959年にポルトガルで作られたハイブリッド種です。

さび病に対する耐性がある上、成熟が早く生産性も高いことから、コロンビアやブラジルで多く栽培されるようになりました。

(ブラジルでは、土壌との相性が良くなかったため、ヴィザサルチとティモールの配合種サルティモールが普及した)

比率としては、ロブスタよりもアラビカの方が高い(1:2)ため、生産性の高いアラビカ種として世に出てみたものの、やはり風味特性は純粋なアラビカより弱いため、生産性の高さから南米のシェアは上げたが、品質は下げたと揶揄されることも多いのが実情です。

● その他のハイブリッド

コロンビア:カチモール同様、ハイブリッドティモールとカツーラの配合種で、コロンビアで1988年から生産され始めました。

カスティージョ:カチモールの中からセレクトされた品種で、2005年にコロンビアで生産が開始されました。

上記2種は、それぞれ「コロンビア」「カスティージョ」の前に「カチモール」をつけて、カチモールの亜種であることを謳うこともあります。

● ジャクソン

リベリカ種とブルボン種が自然交配によってできた新品種に、もう一度ブルボンを掛け合わせて、風味特性を向上させたハイブリッド品種。

ハイブリッドと言うと、ロブスタとアラビカの掛け合わせがメインですが、ジャクソンは珍しくリベリカとの掛け合わせ品種です。

ブルンジやルワンダで多く栽培されています。

ハイブリッド品種は、産業としてのコーヒーを支えてきましたが、近年のスペシャルティブームもあり、その存在に対して批判的な意見も耳にすることが多くあります。

しかし、コーヒーを産業としてではなく、自然の一部として捉えたとき、一般的には交配しないはずであったアラビカとロブスタが染色体数の変異という過程を経て自然交配したという事実には、生命の凄さを感じずにいられません。

そんなハイブリッド品種、毛嫌いするだけではなく、ブレンドに少し入れるだけで、けっこうブレンドが安定したりすることもあります。

バイオリンが主旋律を担当している曲では、高音域こそ素晴らしい音色だと思われていても、コントラバスがしっかりとベースを守っているからこそ、全体のハーモニーに調和が生まれるのと同じかもしれません。

しかし、残念ながらヴェルディではハイブリッド品種を扱っていないので、飲んでみたい方は他をあたっていただければ幸いです。

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