2021年7-8月号掲載
18年前の開業当初、ほとんどのお客様は、メニューもよく見ないで「ブレンド」と注文されることが多かったように記憶しています。
当時はまだヴェルディのような多くの豆を焙煎度合いごとに並べる店は少なく、単一生産国の豆のことを単に「ストレート」と呼んでいました。
いつの頃からかそんなストレート豆の、さらに単一農園豆のことを「シングルオリジン」と呼ぶようになり、ブレンドよりもシングルオリジンの方が価値あるもののように言う人も増えてきました。
クオリティーの高いシングルオリジンは、焙煎さえしっかりすれば美味しい珈琲になります。
そんな素晴らしいシングルオリジンの個性を味わうのも珈琲を楽しむ一つの要素だと思います。
しかし、豆の仕入れから焙煎までを一元管理する私にとっては、ブレンドこそ珈琲の味わいを探求する醍醐味だと思えるのです。
それはどういうことか、私の趣味でもある音楽に例えてみましょう。
シングルオリジンというのは、例えるならピアノであったりヴァイオリンであったり、1つの楽器と言えます。
素晴らしい楽器があり、才能ある作曲家が曲を作り、腕のあるプレイヤーが演奏すれば、感動的な演奏になります。
しかし、ピアノソナタから聞こえてくるのは、たとえ和音であっても、どんなに甘美なメロディーであってもそれはピアノだけの音です。
一方で、ブレンドはいくつかの楽器による合奏と言えるでしょう。
ピアノのみならず、ヴァイオリンや木管楽器などが共演します。
ただ、下手をすると不協和音になる、或いはうるさいだけになってしまいます。
そんな各々の楽器が持つ個性をしっかり掌握して、全体をまとめつつ素晴らしい音色を作ることこそ作曲家の腕の見せ所。
焙煎士に置き換えれば、各々の豆が持つ個性をしっかり掌握して、それを十分に引き出す焙煎をしたうえで、数種類の豆をブレンドして単一豆では絶対に出せない新たな味の創造をすることこそ、本当のアーティストにしかできない仕事だと思うのです。
初めて行った珈琲専門店で、豆の種類が多いときは何を注文しようか悩むところですが、迷ったらその店のハウスブレンド。
そのお店の珈琲に対する考え方が全て分かるのが、ブレンドなのです。


