前回に引き続き、今回もティピカ系の豆についての説明です。
今回も、ものすごくアバウトなコーヒー系統図の中からティピカ系の部分を載せておきます。
前回書いた「ジャワ」や「マラゴジッペ」は、単体としても取り扱われます。
しかし、両品種とも近年土着による変異や交配によって、より注目されていることから、2品種だけを詳しく書きました。
ジャワ種についていえば、近年「ジャバニカ種」がその風味特性から脚光を浴びて、コンテストなどでも上位入賞を果たすなど人気が出てきています。
また、マラゴジッペは、パーカス種と掛け合わせた「パカマラ種」が、中米を中心にCOE(カップ オブ エクセレンス)の入賞品種常連になるなど、目にする機会の多い品種でしたが、今回は比較的マイナーな3種についてさらっと説明いたします。
【ケント】
● 由来
インド南西部マイソール地方で発見されたティピカの突然変異とも他種との自然交配とも言われている品種。
1920年頃、マイソール地方にあったロバート・ケント氏が所有するドッデングーダ農園で発見された。
さび病に強いことから、発見から20年ほどはインドの中で人気品種として広がったが、近年はタンザニアを中心に栽培されている。
● 風味
マイルドで飲みやすいが、比較的固い豆なので中煎りだと個性を活かしにくい。
一方、深く煎っても味が崩れにくく、甘みを伴ったボディ感が増す。
● 雑ネタ
インドのマイソール地方へコーヒーの木が渡ったのは、1600年ごろにイスラムの巡礼者ババ・ブーダンが持ち出したものと言われていますが、1658年にはオランダがイエメンから持ち出した苗木を当時東インド会社が支配していたスリランカへ移植し、そこから200年近くスリランカでもコーヒー栽培が盛んにおこなわれました。
しかし、この1658年から始まったスリランカでのコーヒー栽培が、近年あまり大きく扱われないのは、1860年代にスリランカとインド(南西部)で猛威を振るったコーヒーの病気「さび病」により、両国のコーヒー栽培は壊滅的な被害を受け、特にスリランカではほとんどコーヒー栽培が途絶えてしまったことにあります。
そして、コーヒーの木がほぼ全て枯れてしまったところに、こんどは紅茶の栽培が始まり、インドとスリランカはコーヒー栽培の国から紅茶栽培の国へと変貌を遂げました。
そんな、さび病に対する痛い想いがあったことから、さび病に耐性のあったケント種は、発見当時のインドで人気を博しました。
そして、スリランカではコーヒー栽培が本当に小規模なものになったのに対し、インドでは病害虫に強い「ロブスタ種」の生産が盛んになりました。
ケント種とロブスタ種がインドで人気を得たのは、「さび病対策」という共通の優先事項があったからと言えるでしょう。
【サンラモン】
● 由来
1930年頃、コスタリカ西部のアラフエラ州にある、人口10,000人ほどの小さな町、「サンラモン」で発見されたティピカの突然変異種。
● 木および豆の特徴
樹高が高く、枝と枝の間隔が他のティピカ系と比べて狭いため、見た目クリスマスツリーのような、コンパクトにぎゅっと詰まったように見える。
チェリーは小ぶりで生産性は低い。
高地栽培に適していると言われているが、サンラモンの標高は1,057mとコーヒーの栽培地としては高い部類に入らないのが面白いところ。
生産性が良くないため、広く栽培されているというより、パナマやホンジュラス、グァテマラの一部などで細々と栽培されている品種。
● 風味
とても甘みが強いのが特徴。
もし、生産性が高かったら、多くの農園で栽培されるのではないかと思われるが、逆に生産性が高かったら、こんなに甘みは出ないかもしれないとも言われている(誰が言っているのか知らないが)
【パチェ】
● 由来
グァテマラで発見されたティピカの突然変異種
● 木および豆の特徴
樹高は中程度で、豆は比較的小粒。
● 風味
とてもマイルドで、控えめな酸味が特徴。
● ヴェルディでの取り扱い
開業当初から扱っている「グァテマラ・アンティグア」は、主にブルボン種ですが、その年のグァテマラを決めるためにカッピングして、より良いものを選んだとき、産地情報の詳細を見ると「品種:ブルボン、パチェ」と記載されていることがあります。
あくまで風味で選んでいて、たまたまパチェが入っていたということになるのですが、恐らくブルボンの特徴を崩さず、むしろより引き立てる役割を果たしているのではないかと思います。
【スマトラ】
● 由来
インドネシア、スマトラ島で栽培されるティピカ種。
インドネシアでは「バーゲンダル」と呼ばれている。
従来のティピカに比べると、生産性が高くさび病への耐性も高いとされる。
1908年にインドネシアで猛威を振るった「さび病禍」を生き残ったティピカとも言われている。
● 雑ネタ
ティピカの系統図に入れておらず、由来の部分でも歯切れの悪い書き方をしていますが、それには私なりの理由が3つあります。
1,ブラジルなどでは、「ストロング・ティピカ」と言われており、変異種と言うべきか、土着のティピカと言うべきか悩むところ。
2, スマトラ島(マンデリン)は、他の生産国とは違う「スマトラ式」という精製方法をとっており、他のティピカ種と風味の違いを単純に比較できないため、豆の風味なのか精選方法による風味の違いなのかを明確にできない。
3, マンデリン栽培地域は、小規模・零細農家の集まりで、品種を純粋に単一に管理するという概念に乏しく、本当の意味での「スマトラ種」がどの程度存在しているのかどうかが掴みにくい。
そのような事情で、私としてはあえて「スマトラ種」を外していますが、マンデリンを仕入れるときによく書かれている「スマトラ種」の豆は、実に魅力的で強いキャラクターを持ったものです。
ただ、上記のように、それが本当にスマトラ種の風味なのか、精選方法による違いなのか、あるいは「スマトラ種」と書かれていても、多品種との自然交配が行われているものなのか、さらに零細農家のかき集めになってしまうことから、本当にスマトラ種がどの程度入っているのかが不明なのが【マンデリン】です。
それもマンデリンの魅力でもあり、風味・品質を高い水準で維持することが難しい原因でもあります。