自家焙煎珈琲 カフェ・ヴェルディ

カフェ・ヴェルディの気まぐれ日記

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知らなくてもいい珈琲の話-その10【珈琲鑑定士 Part 3】

2021年3月21日 

前回は、珈琲鑑定士がグレード付けをするにあたって、欠点豆の点数によりTipoを分けると言うことについて説明しました。

しかし、コーヒーのグレード付けは、欠点数に加え以下のことも考慮されます。

● Bebida:味(風味の良し悪し)

● Peneira(formato da fava):スクリーンサイズ(大きさ)、豆の形状

● Preparo(Via Seca eVia Umida):精選方法(ナチュラル or ウォッシュド)

● Seca / Cor / Asprcto / Torra:乾燥状態 / 色 / 見かけ / 焙煎

今回は、[Bebida=風味の良し悪し]についてご説明いたします。

日本国内には様々な珈琲の資格を持った人がいます。

ちょっと講義を聞けば誰でも取れてしまうようなものから、なかなか取得が難しいものまで多種多様ですが、その中でも世界の複数国において、同じ基準で(厳格には同じと言えない部分もありますが)認定されている資格に「Qグレーダー」というものがあります。

これはSCA(アメリカスペシャルティコーヒー協会)が決めた基準で資格を認定するものです。

そのQグレーダーは、コーヒーのグレードを決めるにあたり10の要素について各々10点満点の評価をして、概ね85点以上がスペシャルティコーヒーと評しています。

カッピングは、同じ豆(粉に挽いたもの)を5カップ分用意して、全てのカップをテストして評価します。

なぜ同じものを5つもテストするかと言うと、豆ごとのバラツキがあるか否かということも重要な要素になるからです。

その10の要素は以下の通りです。

1. Fragrance/Aroma(フレグランス/アロマ)
粉の状態と液体になったときの香り。その強弱と質。

2. Flavor(フレーバー)
液体を口に含んだ時に鼻と口で感じる風味。

3. Aftertaste(アフターテイスト)
液体を口から出した後の余韻。

4. Acidity(アシディティ)
酸味の強弱と質。

5. Body(ボディ)
コーヒーを口に含んだ時のボディ=コクの強弱と質。

6. Uniformity(ユニフォーミティ)
味の統一性。5カップの味にバラツキが無いか、或いはどの程度あるか。

7. Balance(バランス)
Flavor、Acidity、Bodyのバランスがどうか。

8. Clean cup(クリーンカップ)
味に欠点(デフェクト)があるか、雑味の有無。

9. Sweetness( スイートネス)
甘さの強弱と質。

10. Overall(オーバーオール)
総合評価。

そして、味の性質については、よくこのようなフレーバーホイールで説明されることがあります。

そのようなわけで、SCA認定のQグレーダーは全ての人が全く同じ味覚を持ち、同じものを飲んだら、全く同じように評価できる・・・のが理想でしょうけど実際には恐ろしいほどバラつきがあるので、参考程度に考えておく方が良いかと思います。

私も豆の買い付けをするにあたり、現地のQグレーダーが下したカッピングスコアは90点と高い数字なのに、実際に日本に入ってきたサンプルを試してみたら、大したことがないというものは吐いて捨てるほどあります。

現地のQグレーダーは輸送中に味が落ちたと言い訳をしますが、高く売りたいから高い点数をつけていることは自明のこと。

では、日本国内のQグレーダーはどうかと言うと、以前弊社の太田がハンドドリップチャンピオンシップに出場したときのことです。

全国大会まで行くと多くの審査員(Qグレーダー有資格者)によって彼女が抽出したコーヒーに点数をつけられるのですが、人によってけっこう点数にバラつきがあって、結局はその平均点でスコアを決めると言うことになります。

要するに、しょせん人間の味覚は個人差があるから資格を持っているからと言って完ぺきとは言えないということ。

しかし、全くの素人よりは根拠のある風味評価と言えるでしょう。

私の場合は、味覚や人間性を信用できるトレーダーが下した評価を最初のフィルターと位置付けた上で、最終的には自分の風味判断で豆を仕入れることにしています。

ちょっと前置きが長くなりましたが、SCAの評価と言うのはそのようなもの。

一方でブラジルの鑑定士が行う風味評価はどうかと言うと、SCA方式よりもかなりアバウトで、評価項目も少なくなります。

ある意味ブラジルらしいとも言えますが、根底にはいかに効率よく大量の豆を素早く評価して流通させるかということを重要視しているというのが本当のところではないかと思います。

そんなブラジルのカップ評価は次のように行われます。

● カップは1種類につき基本的には1つ。

● ドライ=粉の香りの良し悪し

● ウエット=湯を浸したときの香りの良し悪し

● 液体の風味評価

SCAの場合、これらの香りや風味の評価項目が10あるのに対し、ブラジルの場合は全体をまとめて2つのグループ(Grupe)と7段階の評価に分けます。

まず Grupo 1 Arabica=Bebidas Finas(アラビカ・グループ1=良い味)は以下の4段階に評価されます。

Estritamente Mole:ストリクトリー ソフト=最も糖度が高く味が良い

Mole:ソフト=甘みが感じられる

Apenas Mole:わずかにソフト=弱い甘みがある

Dura:ハード=青バナナのような渋みがある

ここまでがグループ1=良い味と評されるものです。

続いてGrupo2 Arabica=Bebidas Fenicadas(アラビカ・グループ2=フェノール系の味がする美味しくないコーヒー)で、以下の3段階に評価されます。

Riada:リアーダ=わずかにヨード臭がする

Rio:リオ=ヨード臭がしっかりする

Rio Zona:リオゾーナ=強いヨード臭がする

よく、ブラジル産の豆の悪い味として「リオ臭」と言われますが、まさにコレのことです。

ちなみに、カネフォーラ(ロブスタ=ブラジルではコニロンと呼ぶ)はGrupo3に分類され、味の評価は以下の4つになります。

Excelente=優良

Boa=良い

Regular=普通

Anormal=異常

全く関係ないのですが、ブラジルでは R の発音をせず H の発音になるので、リオのことはヒオ、レギュラーのことはヘグラと言われ、最初は何のことかよく分かりませんでした。

もし、ブラジル人が美味しくないコーヒーを指して「ヒオ」と言っていたら、それはリオ臭がするコーヒーのことだと思ってください。

※ リオ臭については、そのうちどうしてそれが起こるのかを含めどこかで説明いたします。

そんなわけで、ブラジルの風味評価を図にすると、こんな感じになります。

この中で Dura =ハード=青バナナの渋みと言う味の表現があります。

しかし、ほとんどの日本人は「青バナナ」を食べたことがないので、よく分からないのですが、現地で参考までに青バナナを食べさせてもらいました。

もう、しばらく口の中が麻痺してしまったのですが、この味までが「良い味」に分類されるのか?と驚くと同時に、ヨード臭(フェノール系の風味)さえなければ、良い味に分類しても良いだろうというのがブラジルの発想かもしれません。

そして、もう一つSCA方式のカッピングと大きく違うところは、豆の色も優劣の判断基準になるため、カッピングの際は色を見ずに純粋な味だけを見る必要があるということが挙げられます。

従って、鑑定士の試験の折には、このようなライティングでカッピングを行いました。

まずは評価サンプルが出てきますが、すぐに蓋をとってはいけません。

写真の暗室か?と思われるような赤い光になって色が判別できない状態になってからカッピングを行うと言うことになっています。

これはなかなか面白かった。

そのようなわけで、同じカッピング=風味評価と言っても、SCA方式とブラジルの鑑定士とではいろいろな面で大きく違ってきます。

恐らくSCAの方式を良しとする人、つまりスペシャルティコーヒー業界の人たちからすると、ブラジルの鑑定はアバウトすぎて全然味評価をしているレベルではないと思われるかもしれません。

しかし、これは用途・主旨が全く違うのだから一概にそうは言えないものと思います。

よく、スペシャルティコーヒー専門店の方は、世界で流通しているスペシャルティコーヒーはコーヒー全体の5~10%程度と、非常に希少性が高いものだと主張しています。

中にはピラミッド型の絵をかいて、頂点の部分を指して「当店の取り扱い豆はこの部分」と言っているところも珍しくありません。

これはある意味間違いではないのですが、では、ブラジルの鑑定士が扱っているのは何なのかと言うと、主にはその他の90~95%にあたるコモディティとかコマーシャルコーヒーと言われるジャンルのものなのです。

逆を言うと、SCA基準でQグレーダーが評価する豆は、全体の5~10%にすぎない極めてニッチなものをさらに細分化しているということになります。

スペシャルティコーヒー専門の人からすると、その5~10%が全てなのかもしれませんが、世の中のコーヒーがスペシャルティコーヒーだけになったら、流通量が9割減ってしまうことになり、そうなるとコーヒーの価格は恐らく一杯数千~数万円になってしまうのではないかと思います。

高価なコーヒーというのは、対象となる普及価格があるから「それに比べて高い」と言えるのであって、対象となる一般流通商品がかなったら、コーヒーに限らず世の中全て価格崩壊がおこってしまいます。

スペシャルティコーヒーは、それ以外の9割にあたる普及価格帯のコーヒーがあるからこそ存続していると言っても過言ではなく、それらを否定することは天に唾することと同様と私は思うのです。

コーヒーを衣料品に置き換えて考えてみましょう、世の中全てがシャネルやサンローランであるはずもなく、ユニクロやGAPも必要だということで、世の中の大半の人は、だいたい日常的にシャネルの服を着るわけではなく、ユニクロで十分だと思っているわけです。

しかし、衣料品と違いコーヒーの場合はトップクラスのものと、普及品の差が衣料品ほど大きくないので、世の中の多数を占める一般的な人でも、スペシャルティコーヒーを日常的に飲めてしまうため、スペシャルティ業界の中でも、井の中の蛙な人はちょっと誤解してしまうのかもしれません。

でも、ある程度世の中の仕組みが分かっている人なら、自分はスペシャルティを扱っていても、それはコモディティがあるから成り立っているということを理解しているはず。

そんなわけで、膨大な量を流通させなくてはならないブラジルのコーヒー業界においては、Qグレーダーほど細かく風味を分類する余裕はなく、収穫されたものを次々と世に出していくために必要かつ十分な判断基準が鑑定士の基準=COB(ブラジル公式鑑定法)になったのではないかと私は想像しています。

で、どうして私はQグレーダーではなくブラジルの珈琲鑑定士、つまりニッチを極めるのではなく、グローバルの基準を知る方を選んだのか?と思われる方がいらっしゃるかもしれません。

その答えは、Qグレーダーの資格取得のためには、ブラジルへ行って鑑定士の資格をとり、同時に農園視察をして回るのと同じくらいの費用が必要だったから。

それであれば、私はブラジルという国へ行って、世界最大の産地を自分の目で見て感じて、そのうえで彼らの品質管理基準を知りたいと思ったわけです。

同時に、私たちは「買い手」ですが「売り手」の理屈を知りたかったというのも大きなところで、Qグレーダーは「売り手」も「買い手」も有資格者が多いため、完全な売り手の判断基準と言うのは、ブラジルの鑑定士にならないと分からないということもありました。

そして、今後もQグレーダーの資格取得にお金を出すのであれば、もっといろいろな産地をめぐって、その土地を肌で感じたいと思っています。

それは、自分が資格を持っていなくても、有資格者以上の味覚は持っているという自信があるからかもしれません。

今回も長くなってしまいましたが、次回はグレード分け以外の鑑定士の仕事について書こうと思います。

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