自家焙煎珈琲 カフェ・ヴェルディ

カフェ・ヴェルディの気まぐれ日記

  1. 下鴨店TOP
  2. カフェ・ヴェルディの気まぐれ日記
  3. 知らなくてもいい珈琲の話

知らなくてもいい珈琲の話

知らなくてもいい珈琲の話-その9【珈琲鑑定士 Part 2】

2021年3月15日 

先週、珈琲にまつわる資格はたくさんあるということを書きましたが、今回からいよいよ本題です。

珈琲鑑定士と聞いたら、皆さんはどんな仕事だと思いますか?

恐らく、珈琲をカッピング(テイスティング)して、味に点数をつけたり、グレードを決める人のことだと思うでしょう。

もちろん、それも重要な仕事の一つで、鑑定士の資格試験には味覚試験やグレード付けの試験もあります。

しかし、ブラジルの珈琲鑑定士に要求されるのは、そのような官能的な部分だけではなく、非常にビジネスライクな部分もあるのです。

次の問題は、ブラジルの珈琲鑑定士資格試験に出てくるような問題です。

● KC  Z  11 これは何を意味するか?

● NYBOT にて5月渡しの価格が158.55¢/Lb のとき、1bag(Sc)は何R$か?

 ※ US$1=R$1.70と仮定する

コーヒーマイスターはもちろん、Qグレーダーの試験にも、恐らくこのような問題は出てこないと思います。

これは、商取引上に必要な知識ではありますが、単に珈琲の味を表現するのであれば、それこそ「知らなくていい知識」かもしれません。

どうしてこのような知識が鑑定士に必要になるかは、そのうち説明するとして、まずは皆さんが真っ先に考える珈琲のグレード付けの手法について、ブラジルの鑑定士はどのような基準でグレードをつけているかご説明します。

まず、ブラジルにおいて豆のグレードは「Tipo(タイプ)」と呼ばれ生豆に含まれる欠点数(悪い豆の点数)に応じて、Tipo2~Tipo8までの7種類と、その中間の6種類に分けられます。

TipoはCOB(ブラジル公式鑑定法)に基づき生豆300g中の欠点数が算出されます。

欠点豆には、各々点数があり、例えば「死豆(Preto)」は1粒で1点ですが、「発酵豆(Ardido)」は2粒で1点、「割れ豆(Quebrado)」は5粒で1点となります。

鑑定士は、300gのサンプルから欠点豆を選別し、欠点豆ごとに分類して点数をつけていきます。

欠点数が算出出来たら、下の票に従ってTipoを決定します。

Tipo2は、欠点数が4以下で最も優れており、Tipo8は欠点数が最大360で、最も品質の劣るコーヒーとされます。

ただ、同じTipo2でも中間値があるため、Tipo2とTipo2-45では欠点数が7も変わってきます。

7点の違いとなると、割れ豆などだと300g中に最大35粒の違いがでてくるので、同列には扱えないですね。

欠点数360以上のものは規格外とされます。

ちなみに昔よく耳にした「ブラジル・サントス No.2」というのは、ブラジルのサントス港から出荷されたTipo2の豆ということで、これだけでは広大なブラジルの中でも、どの地域で採れたものなのか、精選方法は何なのか、スクリーンサイズはどうなのか、そして肝心に風味はどうなのか、などが全く説明されていないということになります。

Verdi にご来店下さるお客様の中には、極稀に「サントス No.2あるか?」と訊いてこられる方がいらっしゃいます。

たしかに、ブラジルを出荷する段階では、Tipo2=No.2は最高グレードですが、Verdi ではハンドピックによって欠点豆はすべて取り除いていますので、Tipoとして言うなら欠点数が0なので、表には存在しないTipo1ということになります。

そうしてみると、もしコーヒー店へ行って「ブラジル・サントス No.2」と書かれていたら、それはハンドピックをせず欠点豆が入ったまま焙煎したということを宣伝しているようなものと言えるでしょう。

Tipoが決まったら、欠点数以外の評価が加わります。

COBにおける豆の評価項目は以下の通りになります。

● Bebida:味(風味の良し悪し)

● Peneira(formato da fava):スクリーンサイズ(大きさ)、豆の形状

● Preparo(Via Seca eVia Umida):精選方法(ナチュラル or ウォッシュド)

● Seca / Cor / Asprcto / Torra:乾燥状態 / 色 / 見かけ / 焙煎

次回は、味の評価方法について書きますが、今回は代表的な欠点豆をご紹介しておきましょう。

Preto プレット=死豆または黒豆 1粒の混入で1点

Ardido アルジード=発酵豆 2粒の混入で1点

Preto Verde プレット ヴェルジ=未熟な発酵豆 2粒の混入で1点

Verde ヴェルジ=未成熟豆 5粒の混入で1点

こうしてみると、300g中に未成熟豆が最大20粒混入していてもTipo2=No.2に認定されてしまいます。

ある意味、ちょっとどうなんだかなぁ・・・と思いながら、このTipo決定のプロセスを勉強していました。

つづく

知らなくてもいい珈琲の話-その8【珈琲鑑定士 Part-1】

2021年3月7日 

知らなくてもいい珈琲の話、やっとエチオピアから出国できました。

今回からは、「珈琲鑑定士」という仕事について書きたいと思うのですが、これも知ったからと言って全く役に立たない上、かなり地味な内容で、しかもやたら文章は長くなるので、興味のない方はパスされることをオススメします。

.

現在世の中は「資格」に溢れています。

何かの仕事をするにあたって、その資格を持っていないとできない職業もありますが、世の中に氾濫する資格の多くは、民間団体などが付与する資格で、持っていなくても差し障りがないものがほとんど。

先日散髪にいったとき、店内に流れていたラジオで「野菜ソムリエの私がお勧めする野菜の美味しいイタリアン」なんて言いながらお店の紹介をしていて、つい耳がダンボになっていました。

医者になるためには医師免許を持っていなくてはなりませんし、弁護士や会計士になるためにも国家資格は必須です。

このような難易度の高い国家資格は別として、もっと身近なもので言えば、自動車運転免許証がないと、車を運転できませんよね。

また、飲食店を営業するためには「食品衛生責任者」または「調理師免許」の資格を持った人が店舗にいなくてはなりません。

ただ、調理師免許は若干ハードル高めですが、食品衛生責任者は受講さえすれば簡単に取得できます。

恐らくほとんどの人が知らない資格ですが、私は「甲種防火管理責任者」の資格を持っています。

大型の商業施設や多くの人が住む共同住宅では、防災の計画書を作らなくてはならないのですが、その計画書を作成できるのは甲種防火管理責任者の資格を持った人になります。

まぁ、実際には管理会社が防災計画の案を作り、私は署名捺印をすることと、検査に立ち会ってハンコを押すだけなのですが、運悪く、私が住むマンションの中に、甲種防火管理責任者の資格を持つ人がいなかった(まぁ、普通そんな資格持っている人いないですよね)ので、私はかれこれ20年もマンション全体の防火管理責任者になってしまうという、不運に見舞われました。

そんなわけで、マンションに住む方は、あまりニッチな資格は取らない方が身のためではないかと思います。

そんな多種多様な資格の中でも、先に書いた「野菜ソムリエ」のように民間団体か勝手にと言ったら語弊はありますが、一定の基準を設けて資格を付与しているものは、法的必然性はないものの、そのジャンルの中では権威があったりします。

まぁ、どのあたりが線引きかと言えば、「その行為によって、身体(生命)・財産・基本的人権の保障する知的な部分で、的確さを欠いた仕事をした場合は個人および団体の権利を棄損する恐れがある」ものに対しては資格がないと、その行為をしてはならないということになるのではないかと思います。

医師免許や薬剤師=身体(生命)の部分、弁護士や会計士、司法書士など=財産の部分、教員免許=基本的人権の保障する知的な部分、運転免許や防火管理責任者=生命と財産的な部分といったところでしょうか。

個人の範囲を超えて、ボイラー技士だとか、電気設備関係の資格も、一歩間違うと施設を破壊して財産や身体的な棄損に繋がりますよね。

一方で、野菜ソムリエだとか、ワインのソムリエ、インテリアコーディネーターといった資格は、お金こそ絡みますが、深刻な身体的財産的棄損に繋がるとは考えにくいので、専門職に就くからと言って、持たなくても法的に問題のない資格となるのでしょう。

前置きが超長くなりましたが、コーヒーにも多くの資格があります。

私も聞いたことがないような資格もあり驚きましたが、まとめると、こちらに書かれているほどの資格があるようです。

そして、日本国内においては、コーヒー店を経営するにあたって持っていないと法的にまずいものはない(飲食店営業における食品衛生責任者を除く)ものばかりです。

そう言うと「Qグレーダーは、スペシャルティ認定に必要」という声が出てくるかもしれませんが、スペシャルティ認定をしたら(Qグレードコーヒー認定)「その豆が相場より高価で売れる可能性が高くなる」というだけのことで、どの豆を高く売るか・安く売るかは資本主義社会における自由競争の範囲内、必要性は、あくまで法的根拠で考えて頂ければと思います。

そんな中、ブラジルにおける「クラシフィカドール=珈琲鑑定士」は、日本国内で見ると全く無意味ですが、ブラジルでは国家資格であり、コーヒー豆の取引を行うにあたって、鑑定士によってグレード付けをすることが前提条件になっています。

流通価格はあくまで相場ですが、その相場の元となる【輸出基準の豆】なのか、【国内消費用豆】なのかを判断するのは珈琲鑑定士、輸出用であれば、どのグレードに位置するのかを決めるのも鑑定士なので、ブラジルにおいては珈琲鑑定士が鑑定しないと、取引に入っていけないということになり、日本における「コーヒーマイスター」だとか「コーヒーコーディネーター」といった資格とは全く意味の違うものなのです。

ヴェルディでは、コロナ前に入社した社員は全員 SCAJ(日本スペシャルティコーヒー協会)認定のコーヒーマイスターという資格を持っています。

働くにおいて、最低限の知識は持っていてほしいので、自社の社員には取得を推奨していますが、私が取得したのは「コーヒーマイスター」ではなく「ブラジル政府認定の珈琲鑑定士」でした。

どうしてマイスターやQグレーダーではなく、他国の鑑定士の資格だったかと言うと、世界のコーヒー相場の根拠となっているグレードは、どのようにつけられているのか、また、輸出する側の国がどのような基準でコーヒーを売ってきているのかを知りたかったから、ということでした。

そんなわけで、めちゃくちゃ前置きが長くなりましたが、次に話す内容を考えるにあたっては、【資格】というものの位置付を明確にしておく必要があったので、つらつらと書いてしまいました。

そんなわけで、今回はプロローグということにして、次回から具体的な珈琲鑑定士の仕事についてお話します。

今回は下手すると7~8回連載になるかも。

知らなくてもいい珈琲の話-その7【エチオピア-Part 5】

2021年2月28日 

いよいよエチオピアも本当に最終回。

「次のエチオピアの話、楽しみにしています」といったことを2名のお客様から言われたので、少なくとも2名の方はこれをお読みくださるはず。

今回も長くなるので、エチオピアについてのどーでもいい話など読んでいる暇はないという方は、ここで退出されることをお勧めします。

.

さて、10数年前は、相場が下がっていようが、安くしか売れまいが、早く倉庫にある豆を売るように言っていたエチオピア政府が、2019年には「ECXのオークション落札価格より安く売ってはならない」という法律を制定したという矛盾。

10数年前の逮捕劇は、経済の理論に反していると思われましたが、今日「安売り禁止法」ができるに至った経緯を見ると、やはり経済の論理が正常に行われたので、そのような法律の制定に至ったという、一言で語ると、なんのことやら分からない説明になります。

皆さんは、もし仕入れ価格より安く売らなくてはならないことになったら、どうするでしょうか?

商品の販売で利益が出ないのであれば、それ以外のもので利益を上げようとするのが道理でしょう。

では、珈琲豆という商品で利益が出ない状態において、輸出業者はどうやって利益を上げようと考えたか、そこには前回も書いた通り、エチオピアという国の事情が大きな意味を持ちます。

エチオピアは建設ラッシュ、しかし、建築資材や機器類は全て輸入に頼っている。

しかし、外貨が不足しており、それら輸入資材を購入したくても購入できないので、建設が途中で頓挫して先に進まない状態。

こういう状況だと、建築資材や建設機器の相場は完全な売り手有利に働きます。

極論、モノがないのだから、建築資材などは売り手の『言い値』が『相場』になります。

勘のいい方ならもうピンときたはず。

コーヒーの相場で損をしたコーヒー輸出業者は、建築資材の相場で儲けようと企んだわけです。彼らの儲け方はこうです。

例えば、コーヒー豆の落札価格が 1,000円 / kg だったとしましょう。

通常なら、輸出業者は各国の輸入業者に1,300円 / kg で売れたとしましょう。

もし、落札したコーヒー豆の量が 1トンなら

売価 1,300円 - 仕入価格 1,000円 × 1,000kg = 300,000円 なので、30万円の利益が出ます。

それを 700円 / kg で1トン売ったら

売価 700円 - 仕入価格 1,000円 × 1,000kg = ▲ 300,000円 なので、30万円のマイナスになります。

しかし、コーヒー豆の取引としては赤字でも、そこで得た70万円で、70万円分の建築資材を購入して、150万円で売れば

建築資材の売価 1,500,000円 - 資材の仕入れ価格 700,000円 - 豆の赤字300,000円 = 500,000円

となり、普通に豆の輸出をするより20万円利益が多くなります。

そうなると、相場とは関係なく輸出業者は手っ取り早く外貨を獲得するために、輸入業者に安く豆をたたき売ります。

そこで得た外貨で、建築資材を輸入して建設業者に『言い値』で高く売れば、楽して儲かるということになります。

本業の豆で利益を出そうとしたら、頑張って付加価値を付けて、より高値で輸出業者が購入するよう仕向けなくてはなりませんが、誰か一人でも相場より安く売る業者がいれば、買い手はその売り手の元に集まります。

そのような負の連鎖によって、エチオピアのコーヒー豆は本来あるべき価格よりも安く流通するようになってしまい、同時にエチオピアの国内では、相場より高い建築資材しか流通しなくなってしまうという悪循環に陥るわけです。

元はと言えば、真っ当に相場で利益を出そうとしていた輸出業者をたきつけて、早く外貨を獲得するため損してでも売るよう促したところ、それによって不必要に建築資材の高騰を招いてしまったと言っても過言ではなく、そのあたりが経済政策の難しいところかもしれません。

そんなエチオピア産のコーヒー、風味の面において、中米のスペシャルティと比べても決して劣っていない、と言うよりも、中米がどんなに頑張ってもエチオピアの味は決して出せない唯一無二のものです。

私の個人的な見解としては、エチオピアの豆は、そのクオリティを考えるとコーヒー全体の価格としては安すぎると思うのですが、その原因がこのような事情によるものだと考えると、今回の法律が制定されたことにより、近々消費国におけるエチオピア豆の販売価格は暴騰するのではないかと案じているところです。

.

さて、エチオピアのコーヒーについて、私たちは農園を回った最後に輸出前の最終工程である「ドライミル」の工場建設現場を見せてもらいました。

エチオピアで私たちがお世話になったのは、エチオピア国内に多くの農園とウエットミル(精選工場)を持ち、輸出も自らしている METAD社。

通常、農園がウエットミルとドライミルまで持って輸出まで一貫して行うことは少ないのですが、エチオピアという国で、クオリティをしっかり維持して、まさにシード to カップまで責任を持つには、生産と精選、輸出まで一貫する必要があるということなのかもしれません。

METAD社の社長

アディスアベバから車で1時間ほどのところにある精選工場(ドライミル)

豆の比重選別機

ベルトコンベアの両脇に人が並んで、ハンドピックをするための最終選別ライン

巨大な精選工場

METAD 社のウエットミルは、場所によって地域の零細農家からチェリーを買い付けて一つのロットを作ると言うこともしています。

しかし、仕入れにおいては厳しい基準を設け、しっかりとグレーディングされます。

彼女が、零細農家が持ってきたチェリーの可否を判断する責任者。

若く美しい方でしたが、チェリーを見分ける眼力は、この地域でも飛びぬけているとか。

METAD社の社長に、どうしてこんなに大きな投資をしてまで、ドライミルを作る気になったのかを聞いてみたところ、こういう答えが返ってきました。

本当に良い品質を確保するために、ドライミルは大きな役割を持っている。

同時に、エチオピアでは、輸出業者がインポーターやバイヤーに送るサンプルをドライミルで見かけた良い豆から抜き取って(要するに他人の豆)送り付けてしまうことも珍しくない。

そういう不正が起きないよう、自社のものは自社が責任をもって全て管理する必要がある。

エチオピアに限らず、他の一部の国の豆でも、サンプルは素晴らしいのに、いざ入荷した豆を見て愕然とすることが過去に何度かあったのは事実です。

「もしや」とは思っていても、実際にそういうことが行われていると聞いて、ショックだったのと同時に、コーヒーの世界においては、未だにそういうリスクがあることを知っていないといけないと感じました。

ただ、そんな中においても、こうして良いものを追求している人々がいることも事実です。

私たちは、より良いものを適正な価格で仕入れて、より良いコーヒーをお客様にお楽しみ頂けるよう努力しなくては、と、強く思う瞬間でした。

エチオピアの農園は、標高2,000メートル以上にあることも多く、朝は雲の中にいます。

農園での目覚めは、鳥の声に起こされ、外に出ると薄雲の中から日が差してくる、幻想的な朝でした。

そして、日没の太陽は、日本で見るものと比べとても大きかった!

私が最も信頼するコーヒーインポーターのH氏は、こう語ります。

「アフリカに来るといつも感じることに、自分の精神面が健全であれば、アフリカと言うところは、とてつもないパワーをくれる、けど、少し精神的にネガティブになっていたら、全て吸い尽くされてしまうほどパワーを奪われる」

この国のコーヒーが持つ、とてつもなポテンシャルと、それを活かせない国の事情。

ものすごく素晴らしい味のものが出てきたと思ったら、翌年は全くの空振りに終わることもしばしば。

しかし、どんなに酷いものをつかまされても、それを上回る期待感が、この国のコーヒーにはあります。

これからも、お客様に最高のエチオピアを提供できるよう、日々探求していきたいと思います。

エチオピア編 ひとまずおしまい。

知らなくてもいい珈琲の話-その6【エチオピア-Part4】

2021年2月21日 

知らなくてもいいエチオピア事情について、ついに第4回目。

一応、今回で完結の予定です.

前回はエチオピアの輸出業者が、10数年前にNYの相場が大きく下落したとき、自社の倉庫にストックしていた珈琲豆を相場が上がるまで売らずにいたら逮捕されてしまったということを書きました。

経済の常識から言うと、これはとんでもないことで、国家権力が企業の利益を損ねようとしていると言うことになります。

なぜそんなことになったのか、アディスアベバの街を見ると、おぼろげにわかってきます。

前回書いた通り、アディスアベバの街は建設途中の建物が多く、工事が再開されるのかどうかすら分からないような状態で放置されているものも少なくありません。

これは、単に国が貧しいから工事が進まないというだけではなく、もっと根本的な事情があるのです。

下の画像は、外務省のホームページにあるエチオピアの基本データです。

(文字が小さくてすみません、拡大してご確認ください)

エチオピアの主要産業は「農業」で、穀物・豆類に続いてコーヒー、油糧種子(菜種やゴマなど植物油の原料となる種子)などが並びます。

そして、輸出入の商材を見てみると

コーヒーを筆頭に、油糧種子、切り花が主要輸出品目。

逆に、機械類や電化製品などは輸入に頼っていることが分かります。

そして、このデータだけでは分かりませんが、エチオピアは燃料資源に乏しく、また鋼材などもとれないため、建築に使われる機械はもちろん、資材なども輸入に頼っているのです。

そこで問題になるのが、建設材料や建設機器を購入するためにはドルが必要になると言うことで、ドルを得るためには輸出しなくてはならないわけです。

もし、貴方が株をやっていたとしましょう。

安いときに購入して、株価が上がったら売る、これは当然のことです。

しかし、それは潤沢に(潤沢と言えなくても、困らない程度に)キャッシュがあるからできることで、明日食べる食料を購入するお金すらなければ、購入価格より株価が安くても売らなくては生きていけなくなるわけです。

これをエチオピアという国の経済事情に当てはめて考えると、建設したくても資材を購入するお金がなくて、途中で放置しているビルが立ち並ぶ中、相場が上がるのを待つ余裕のない政府は、利益が出なくてもいち早く外貨を獲得するために相場と関係なく豆を売るよう指示したということです。

しかし、国のお財布と輸出業者の懐具合には温度差があり、損してまで売る必要に迫られていない輸出業者は、売り控えていました。

そこで政府が強権発動で、輸出業者の経営者を逮捕することで、とりあえずの外貨を獲得するという戦法に出たというのが、このへんてこな逮捕劇の現実だったようです。

ところで、「主要産業」の図の中に緑で囲った部分があります。

ここには「チャット」と書かれていますが、これを見て私は思わず目が点になってしまいました。

このチャットとは、実はエチオピアはもちろん東アフリカで今問題になっている麻薬に準じる葉っぱなのです。

どんなものかと言うと、下の写真で私が持っている葉っぱです。

この葉っぱを噛むと、高揚感が出てきて、俗にいう「ハイ」になれるとのこと。

WHOは乱用すると依存を引き起こす薬物として指定、アメリカやヨーロッパの多くの国では非合法薬物と認定して禁止しています。

が、エチオピアを中心とする一部のアラビア諸国では紀元前から使用されてきたという歴史もあり、宗教的儀式にも用いられていたことから禁止薬物には指定されていません。

なので、私もちょっと嚙んでみましたが、全くハイになれず・・・

聞けば、エチオピアの中でも愛用者はチャットを常時噛み続けているそうで、私が持っている一束くらいを噛んでいたら、ハイになれるそうです。

まぁ、ちょっとやそっとでは効果はないらしいようで。

でも、このチャットは街を車で走っていても、ちょっとスピードが落ちたり止まったりしたら、売り子が走ってきて窓をたたくし、ガソリンスタンドでも若いお姉さんがカゴに入れて売りに来ていました。

昔々、麻薬なんて概念がない時代から噛み続けられていた「チャット」

ある意味、エチオピアの人にとってはコーヒーとチャットは同類だったのかもしれませんが、紆余曲折はあったものの、コーヒーはその後全世界で流通する一大産物となりました。

一方のチャットは逆に虐げられた存在になっています。

そんなことを考えていたら、パプアニューギニアでどちらかと言うと上流階級ではない人たちが一日中「バターナッツ」を口に含んでいたことを思い出します。

このおじさんの口の中、けっこう赤くて歯には赤いアクのようなものがこびりついていますが、バターナッツと石膏を口の中に入れて噛んでいたら赤くなるのです。

私たちにも「どうだい」と売りに来ましたが、丁重にお断りしました。

それにしても、この集団の人たちの口の中は、みんな赤かった。

ただ、外国人が宿泊する高級ホテルでは、バターナッツが禁止されているところが多かったように思います。

聞けば、口の中が赤いとヴァンパイアを見たような気にさせてしまうことと、バターナッツと石膏を長く噛んでいると弱い幻覚作用があるからだそうです。

パプアでも、古くからバターナッツを噛む風習があったと聞きますが、もしかすると口の中を真っ赤にしている原住民を見て、欧米の人は必要以上に「人食い」を思い浮かべ、パプア=カニバリズムというのが有名になってしまったのかもしれない、なんて思ったり。

まぁ、そんなわけで、ちょっとエチオピアのチャットとパプアのバターナッツは似ていると思ったわけです。

そんなチャット(イエメンでは「カート」と言う)今やアフリカのエチオピア近隣諸国でも禁止の方向に進んでいます。

その大きな理由の一つは、薬物としての怖さ以上に、コーヒーや穀物を植えていた農園がチャット畑になることだそうです。

実のなる農作物は、せいぜい年に一度か二度の収穫、一方チャットは葉っぱを切れば、またすぐ生えてくるので、年中収穫できるから、穀物やコーヒーを作るより楽。

しかし、チャットは土中の成分を多く吸収するため、一度チャット畑にしてしまうと、次に農作物を植えようとしても土がダメになってしまっているそうです。

エチオピアの人に、先のことを話してもなかなか通じないわけで、将来の土壌より明日の現金が最重要。

私も、どちらかと言うと薬効の恐ろしさより、土壌破壊の恐ろしさの方が大きいように思いました。

話がそれてしまいましたが、本題に戻ります。

10数年前は、利益が出ようが出まいが、早く売るよう促した政府が、2019年の11月21日、まさに私がエチオピアの農園視察をしているタイミングで、次のような法律が制定されました。

ECXのオークションで落札したコーヒー豆は、落札価格より安価で売ってはならない。

このニュースを私はアンベラの農園で聞いたのですが、それじゃぁ10数年前の逮捕劇はいったい何だったんだ?!ということになります。

そのことについて書こうと思ったのですが、ただでさえけっこう長くなってしまったうえ、この件について書きはじめたら、もっと長くなってしまうので、本日が最終回のはずだったのですが、もう一回だけエチオピアについて書くことにいたします。

そんなわけで、次回は上記法律がどうして成立したのか、ということと、エチオピアの総括をしたいと思います。

長文にもかかわらず、ここまで読んで下さった方には感謝申し上げます。

知らなくてもいい珈琲の話-その5【珈琲初めて物語】

2021年2月9日 

今朝は湿度が高いのか、空気がちょっと重く感じた。

さて、本当は日曜日に連載している「知らなくてもいい珈琲の話」ですが、昨夜は書く元気がなかったので、今日に持ち越したものの、エチオピアのことを書くにはちょっと時間的余裕がないため、今夜は番外編としてエチオピアから離れて「珈琲初めて物語」と題して、珈琲のちょっとした小ネタを書かせて頂きます。

今、普通にあるものも、その昔に誰かが発見したり、始めたりしなかったら、今もないものかもしれません。

そんな珈琲の初めてをいくつかご紹介しましょう。

珈琲を発見したのは、山羊飼いカルディ少年と言われていますが、発見当時は恐らく「葉や実を単に噛んでいた」のではないかと考えられています。

そのうち「実や葉を熱湯に浸してお茶代わりに飲む」、さらに「実を(種を含む)挽いて、獣肉の脂と混ぜて食べる」「発酵させた実からワインを作る」「軽く煎った果皮からキシル(現在はキシェールと呼ばれる)という甘い飲み物を作る」と言う風に発展していき、16世紀になって、やっと種子を煎って、それを湯に浸して飲むという現代の飲み方に近い方法がとられるようになり、それが今に伝わるエチオピアのコーヒーセレモニーに発展したと言われています。

世界最古のカフェと言われる「カフェ(カヴェー)カーネス」がトルコのコンスタンティノープルにオープンしたのは1554年なので、世の中のカフェは、コーヒーの飲食方法の最終系(現代と同様)になってから開業されたということになります。

カフェ カーネスの誕生後、トルコを中心にイスラム社会では次々とカフェがオープンしていき、コーヒー人気は高まる一方でしたが、反面「社会を乱す刺激剤」とも言われるようになりました。

基本的にお酒を禁じているイスラム社会において、コーヒーがお酒の代役を引き受けた形になり、近代社会でもしばしば見受けられる、酒場が悪の温床になるごとく、16世紀のコーヒーハウスは、集まった客がギャンブルや不純異性交遊にふけるようになったとも言われています。

そして、同時進行で16世紀はコーヒーに対する迫害も起き始めた世紀なのです。

実は、コーヒーという食材(飲料)の歴史は、コーヒーに対する迫害の歴史でもあると言えます。

そんなコーヒーについて最初の迫害は、メッカの地方長官であるハイール・ベイによって出された布告と言えるでしょう。

メッカの長官、ハイール・ベイはコーヒーハウスを中心に自分に対する風刺が出回っていると言うことを知り、宗教家や法律家、さらには医学者たちを説き伏せて、「コーヒーも酒と同じくコーランで禁止させるべし」という布告を出したのです。

その結果、メッカのコーヒーハウスは強制的に閉鎖されました。

しかし、コーヒーは幾度となく権力によって禁止令が出されるものの、廃れることなく復活を遂げていきます。

ハイール・ベイの布告を解いたのは、市民の力ではなくコーヒー好きだったカイロのサルタンが布告を取り消し、あっという間に復権を果たしました。

しかし、16世紀におけるコーヒーに対する迫害は、それで終わったわけではありませんでした。

イスラム社会で愛飲されていたコーヒーは、ヨーロッパ全体へも広がります。

すると、キリスト教の高僧たちは、異教徒の飲物であったコーヒーを禁止すべきと時のローマ教皇クレメンス8世(第231代教皇・1592年1月30日~1605年3月3日の間在位)に進言。

教皇にコーヒーを飲ませて、この悪魔のような黒い液体を禁止してほしいと申し出たところ、クレメンス8世は「悪魔の飲物にしてはたいそう美味、これを異教徒に独占させておくのはいかにも惜しい、いっそこの飲物に洗礼を施し、キリスト教徒の飲物にしてやろう」と言い、コーヒーに洗礼を施したとされています。

こうしてみると、イスラム社会でも、キリスト教社会でも、ある程度の高い地位にいる人たちがコーヒーを排除しようと働きかけたものの、トップダウンで却下されてしまったという不思議な共通点が見受けられます。

その後もコーヒーについては、色々な人のいろいろな欲望と批判、迫害と復権が繰り返されてきましたが、また機会があればちょこちょこ書いていきたいと思います。

そんなわけで、次回はきちんとエチオピアについて書きたいと思います。

知らなくてもいい珈琲の話-その4【エチオピア-Part 3】

2021年1月31日 

知らなくてもいい珈琲の話も4回目。

今回は、エチオピアという国の珈琲と言うより、ちょっとお金の話をいたします。

が、正直今回は本当に知らなくても全く問題ない、要するに「どうでもいい」話なのに、けっこう長くなるので、どうでもいい話に付き合う余裕はない、という方はここでご退出されることをおすすめします。

.

さて、先週も書いた通り、エチオピアは世界の中でも最貧国のひとつで、一人当たりの月給は平均4,500円。

日本だと、高校生が5時間ほどアルバイトすればもらえる程度の金額です。

しかしこれは、GNP から計算しているので、ものすごくリッチな人から、ものすごく貧しい人まで全てを平均化した金額になります。

零細農家の生産量は年間400~500kg、間をとって450kgとしましょう。

市場での買い上げ価格が概ね8ブル(約40円)/ kg なので、その一家が珈琲専業であれば年収は約18,000円=月収1,500円程度になってしまいます。(一人当たりではなく、一家で、です。)

すると、子供たちは、こんな服を着ることになってしまいます。

もし日本で、ファッションではなく、これしかないからこんな服を着ている人と出会ったとしたら、こんな笑顔で明るく振舞ってはいないのではないでしょうか。

この時点で、日本の常識は全く通用しないことが分かります。

日本で、最高級のエチオピア豆を購入したら、100gで1,000円前後します。

つまり、日本におけるエチオピアの豆100gの値段は、同国零細農家の世帯収入の実に2/3にあたります。

その数字だけを捕らえて、「フェアトレードすべし!」と言うことは簡単です。

しかし、産地よりも少し都会に暮らす人たち、つまり零細農家の人たちより少し収入の多い人たちの表情や態度は、むしろギスギスしていて、田舎の子供たちのような笑顔が見られないことの方が多かったのも事実です。(もちろん、首都のインテリ層はまた違いますが)

洋の東西に関わらず、都会に住んで、そこそこの衣食住を維持するためにはお金がかかります。

自分がお金を使っているようでいて、実はお金のために振り回され、自分の意志とは関係なく無理をしなくてはならない、ある意味「お金に使われている」のではないかと感じるときがあります。

そんなとき、ふと田舎で畑でも耕しながら、のんびり晴耕雨読の暮らしもいいなぁ、と思ってしまうことがあります。

実際には、農業の大変さを実体験として持っていないから、そう思えるだけかもしれませんが、(要は隣の芝は青い)でも、そんなとき、「豊かさって何だろう?」と考えてしまうわけです。

話がそれましたが、もし、完全なフェアトレードを実現させ、エチオピアという国全体の構造が変わらないまま、零細農家の収入だけが先進国の農家並みになったとしたら、もしかすると、この子供たちの笑顔は「屈託のない笑顔」から「卑しい笑顔」に変わり、やがてエチオピアの珈琲産業そのものが根本から崩壊してしまうかもしれないと思うのです。(そう思うに至る理由を書きはじめたら、連載が永遠に続くので、ここでは割愛します。)

さて、ここまでは前置き。(マジ、今回長くなりそう)

エチオピアのコーヒー栽培は、零細農家の比率が高く、その人たちの世帯収入が年間18,000円程度なのに、国全体の平均は一人当たり年間55,000円.

そのレベルまで引き上げようと思ったら、かなりリッチな人がいないと無理になります。

そのリッチな人は、エチオピアの珈琲産業の中で言えば、「輸出業者」にあたると言っても過言ではないでしょう。

同時に、輸出業者は単に海外バイヤーとの取引で得る以上の収入を得ている人が多いのです。

それはどうしてかと言うことを書く前に、エチオピアの首都、アディスアベバの街を見渡してみる必要があります。

近代的な街並みで、奇麗な車も多くてスタイリッシュな女性が歩いている。

余談ですが、エチオピアの女性はすごく美しい人が多く、また男女の性別関わりなく、足が長くてすらっと細い人が多いのです。

ちょっとうらやましいかもしれない。

一見先進国の街並みのように見えても、ほんの通り1~2本歩くと・・・

こんな感じの風景に変わり、さらに一本わき道に入ると・・・

遠くに高いビルは見えますが、どこのスラムだ?という光景が広がります。

アディスアベバの中心地から少し郊外へ行くと、新興住宅街が目につきます。

そのすぐ先には、もう一つ住宅街を作ろうとしているように見える場所もあるのですが・・・

工事は止まったままで、いつ完成するかも、再着工できるのかも分からない建設中のマンションが並びます。

街を歩いていると、左のような近代的な建物がある反面、完成したビル以上に多くの建設途中で投げ出されたようなビルが見られます。

エチオピア、と言うか、アディスアベバは現在ものすごい建設ラッシュ。

その建設ラッシュ、実は途中でストップしてしまっているビルが多いというあたりにエチオピアのお国事情があります。

同時に、それがコーヒーに関わる様々な法律にも影響を与え、場合によっては先進国なら当たり前に行われている商慣行すら、それを実行すると逮捕されてしまう、なんてことに繋がりかねないのです。

事実、今から13~14年前のこと。

エチオピアの輸出業者の中でも売上TOP10の中から5社、TOP30の中から10社の社長が逮捕・収監されるという事件が発生しました。

その理由を簡単に言うと、[ECXで購入したときの価格と比べ、国際相場が低かったため、NYのアラビカ相場が上がるまで豆をストックして、相場が上がったときに売りに出したから。]

資本主義社会で言えば、安いときに購入して高いときに売るというのは商売人として当然のこと。

でも、それで逮捕されてしまうというのはどういうことなのでしょうか?

そのあたりを説明しようかと思ったのですが、まだまだ長くなってしまうので、続きはまた来週。

できれば、来週でエチオピアの連載には一区切りつけたいと思っておりますが、さぁ、どうなることやら。

このページの先頭へ