コーヒーの精製もいよいよ最終回。
今回は精製方法のシェアとしては非常に小さく、インドネシア・スマトラ島の中でもマンデリンを製造しているエリア以外、ほぼ利用されていない「スマトラ式」について説明いたします。
そもそも、スマトラ式という精製方法がなぜ採用されているのかを考えてみましょう。
まず、ナチュラルの場合は、収穫後の時期は乾季であるか降雨が少ない必要があります。
そして、広い平地も必要です。
一方、ウォッシュドは比較的短期間で乾燥まで持って行けるので、収穫後も雨がよく降る地域でも採用できます。
また、平地が少ない山岳地帯などでもできるというのが利点です。
それではスマトラ島はどうか?と言うと、中南米の多くの国々、ウォッシュドを採用している多くの地域と比べても、収穫後の降雨量が多いことが挙げられます。
また、ほとんどが零細農家で、土地も非常に狭いという事情もあります。
そんな事情から、独自の精製方法と流通方法が出来上がっていったのが他にはない味わいの「マンデリン」です。
【コーヒーの精製】の最初に書いた通り、精製方法の違いは、どのタイミングで乾燥させるかということが最大のポイントになりますが、スマトラ式はその中でも非常に独特な手法がとられます。
精製方法による比較チャートを作ってみたのでご覧ください。
農家が行うのは、果肉を除去した状態である【GABAH】までで、この状態で仲買人が豆を小規模農家から買い集めます。
そして、仲買人か市場のエクスポーターはこのウエットパーチメントの状態のものからパーチメントを脱穀(この状態の豆をLABUと呼びます)、生豆にした状態で水分値12~15%まで乾燥させて(この状態のものをASALANと呼びます)保管・熟成するという仕組みになっています。
ここで問題が発生します。
通常、珈琲豆を仕入れる業者はドライパーチメントか生豆になった状態で仕入れの判断をします。
この状態まで行くと、その豆がどのようなクオリティーか分かりやすいのですが、スマトラ式の場合はウエットパーチメント、つまりGABAHの状態で判断をしなくてはなりません。
その段階では、その豆がどんなものなのかが非常に分かり辛い状態です。
上の比較写真をご覧頂いたら分かるように、ウエットパーチメントの状態だと、豆の熟成度合いなども分かりにくく、それがマンデリンの市場に有象無象のものが溢れる要因となっています。
そんな中、少数の優秀な仲買人(プロデューサーと呼ばれてい)は、長年の経験から、良い豆を生産する農家を知っているため、豆を見るのではなく永年良い豆を作り続けている農家を信じて高値で買い付けます。
したがって、市場に出回るものは、少数の仲買人が優良農家から仕入れた後の、品質の保証がないものということになります。
つまり、良いマンデリンを仕入れるためには、優良なプロデューサーと取引のある業者から買い付ける必要があるという、他国とは少し違う仕入れルートの選定をする必要がある豆なのです。
話がそれましたが、このようにウェットな状態で買い付けられるマンデリン。
ウエットな状態ということは、ドライなものよりも豆が柔らかい状態で運搬されることになります。
さらに、仲買人はGABAHを水分値が高い状態で脱穀してLABUに仕上げ、そこでさらに水分値12~15%まで乾燥させなくてはなりません。
そうなると、柔らかい上パーチメントに守られていない豆を攪拌して乾燥させるわけですから、豆がひしゃげてしまったり、また作業中に踏んでしまって豆がぺちゃんこになってしまったりということがあります。
優良なプロデューサーは、精製においても細心の注意を払うため、他の生産国同様奇麗な形状の豆が届きますが、そうでない場合は一目で「マンデリンだ」と分かる形状の豆を仕入れることになります。
そのように見た目だけでも、その豆の遍歴が分かるのがマンデリン。
同時に、このような他にはない精製方法をしていることもあり、他の豆では絶対に出せない風味特性を持っているのもマンデリンです。
スマトラ式という精製方法が採用されているのは、全生産国の中でも極限られた小さなエリアだけなのですが、その存在感は他国にはない芳香を放つ人気豆なのです。